□La vie en rose
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花束をもらったのなんて初めてだ、と彼女は笑った。

多くつきすぎた薔薇の蕾を摘んで束ねて、戯れにリボンを結んだだけの代物。こんもりと小さい円を描くシルエットは可愛らしくはあったけれど、豪奢さにはいまいち欠ける。

しかし彼女の幼い片手に、すっぽり収まるそれはとてもよく似合っていた。

素朴で、いまだ開かぬ小さな蕾。
それが彼女に似ていたのかもしれない。

「センクウ先輩、ありがとうございます」

へにゃりと笑んだその顔につられて、口の端が緩む。

「そう大したものではないぞ」

「でも、かわいいです」

「……そうだな」

くるくると手の内で弄びながら、押し花を作って、ドライフラワーにして、それからそれから、なんて夢をふくらませる呟きが何とも言えず微笑ましい。

「あ、こうするとコサージュみたいですよ先輩!
一気に大人の女性ですね!」

小さな花束を胸に寄せて、まるで世紀の大発見のようにはしゃいだ声を上げる。

その様を見ていると、どうも大人の女性とやらへの道のりは長そうだ。

「……ああ。可愛いな」

「ね!」

小さなレディが、嬉しそうにくるくる回る。硝子の温室に籠もった香りが、ふわりと揺れた。
空気が甘さを孕んで、巡る。

軽い眩暈がした、ような気がした。

「センクウ先輩?」

「……いや、何でもない」



──今度は、大輪の薔薇の花を贈ってやろう。
そう、咲き誇る薔薇が似合うようになった頃。

願わくばどうか、それまで誰にも手折られることのないように。


気付かれぬよう彼女のやわらかな髪を掬って、まるで一枚の花弁をいとおしむように、センクウはそのひとふさにそっと口づけた。



La vie en rose
(可憐に咲けよ、小さなレディ)


了.





センクウ先輩だったら、どんなに甘くしても許されるような気がする。
名前変換無くてすみません。

 

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