魁
□少女幻想譚
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「貴女を女と最初から知っていて、それでも……子供の戯言が、真実になればいいと」
いいえ、となまえはかぶりを振った。
それは違う。
自分が本当に望んだ物は、そんな形ではなかった。
「──そう、私が……貴女を娶りたかった」
仁蒋がどんな顔をしているか、見ることが恐ろしくてなまえは空を見上げる。
広大な碧空は、ちっぽけな自分など簡単に呑み込んでしまいそうだ。
「私はどうして、男に生まれなかったのかしら」
男ならば拳の道を志し、必死に修行に耐えて、誰よりも強くなって。
大切な貴女を慈しみ、愛おしんで、この手で守ることが出来たはずなのに。
…いや、これこそが戯れ言に過ぎないのだ。
もしもを語ったところで、虚しさが胸を震わせるだけ。
──ふと、仁蒋の手がなまえの背に触れた。
振り向いた先で、今までじっと押し黙っていた仁蒋が口を開いた。
「……女としての道など、とうに捨てました」
静かな表情で紡がれる、静かな言葉。
「ここに居るのは、ただの武の頂点を志す者……それだけです」
その凛とした声音に満ちる、確固たる意志。
それはまるで堅い岩のよう。
それは強固で、形を変えないが故に、壊れやすい。
「…そうね。
あなたがそう言うのなら、きっとそれが本当なのね」
真拳寺の三蒋にまで上り詰めてなお、消し切れていない女の性を内包したまま進む先で。
彼女自身ですら気付いていないだろう、そんな微かな兆候に気付いて彼女を女と見抜く者が、きっと現れる。
そうしたら、その時は──。
(貴女も、こんな思いを抱くのかしら)
「……なまえ様?」
「いいえ、何でもないわ。
…戯れが過ぎたわね、ごめんなさい仁蒋。あなたってば、本当に真面目な人なんだから。ふふ」
(いつか)
「──そんな貴女が、とっても好きよ。」
(いつか私は心から、貴女を友と呼べるかしら)
答えを成せないままの問いかけが、胸の内で消える気配もなく延々と渦を巻いていた。
了.
書き始めた時は友人関係だったはずなのに、どうしてこんなことに。
仁蒋はいいお嫁さんになる、とか思いながら書いたのがアレだったのかなー。
次は友情が書きたいです。