□少女の決意は穏やかに
1ページ/4ページ




邪鬼先輩の意志は桃が継いだ。

月光の意志は三面拳が継いだ。

ならば彼らの意志は、自分が継ぐのが筋というものではなかろうか。
そうしても、許されるのではないだろうか。

「……先輩」

主を喪ったシルクハットは、なまえの胸の中で静かに身を委ねている。
そこから返事など返ってこない。当たり前だ。だってこれは彼ではないのだから。

彼らはもう、どこにも居やしないのだから。

遠ざかっていく冥王島の残骸は弾けて砕けて波間に沈み、消えていく。
島での日々も同じように消すことが出来ればいい。そんな子供じみた考えがふと浮かんだ。

塾生達をわらわら乗せた小舟が、ゆらりゆらりと水面を滑っていく。
男塾へ向かって、いつもの日常に向かって進んでいく。

彼らのいない日常はどのようなものなのか、なまえにはまだわからない。ただ、いやに冷えた空気が胸の隙間をひゅるりとすり抜けるだけだ。

もうすっかり乾いた頬に、海風はやはり少しだけ染みた。





少女の決意は穏やかに






天動宮に続く鎮守直廊は、物音一つしなかった。

真っ暗い口を不用心にぱっかりと開けて、恐れられた頃の気概も何もあったものではない。少し不気味で物騒なだけのただの廊下だ。

番人の居ないこの場所など、もはや抜け殻にしか過ぎない。

問答の聞こえぬ棘だらけの床を渡り、蝋燭が掻き消えたままの硫酸のプールの下を歩く。
最後の房は電流どころか、歩いただけ前に進むというていたらく。

突破までの所要時間はおよそ10分。鎮守直廊も堕ちたものである。



.

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ