□月下の契
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その言葉に、私の心臓が大きく跳ねた。
図星だったからじゃない。

彼の声が急に、低く咎めるような語調に変わったためだった。

「な……何だ、知ってたの?」

「見ていたからな」

「……見てたって、私を?」

「ああ、ずっと」

「…………」

「お前が俺を見て、愕然とした時からずっと」

「……そんな、こと」

声が上擦った。嫌な汗がじっとりとわき、血の気が引く。
そんなことないと言いかけたけれど、言えなかった。

きっと知っているのだ、彼は。

私の彼に対する思いも、その出所も。



「……嶺厳」

「何だ」

「ここ、座らない?」

固い校舎の壁に体を預け、ずるずると滑る。ポケットからハンカチを引きずり出して隣に置いた。
ぽんぽん、と手のひらを弾ませると、嶺厳は何だか困ったような複雑な顔をして私を見た。

「……これは、いらん」

汚れるぞと呟きながら、白いハンカチが私の手に戻された。そして一人分程度離れた隣に嶺厳が座る。
それじゃあと代わりに、私はこっそりくすねてきた酒のつまみをその上に乗せた。

さきいかを一本口に放り込むも、味が良くわからない。それでもほんの少し、先程よりは胸の鼓動が落ち着いた気がした。

「食べない?
美味しいよ、多分。よくわかんないけど」

「結構だ」

「そっか」

続けてチョコレートをぱくりと一口。今度はちゃんと甘かった。

わずかばかり安堵して、嶺厳を横目で伺うと、彼は素知らぬ顔で空中に視線を送っていた。



「……独眼鉄と、懇意にしていたと聞いた」

「……い、一方的にくっついてただけ、かな。
先輩たちは鬱陶しそうだったし」

「お前が懐いていたことに変わりはないんだろう。

……恨んでいるのだろうな、俺を」

「………………」

恨む、とはっきり口に出されて、落ち着いていたはずの心臓がまた痛み出した。

実に直球でものを言う人だ。歯に挟まったような物言いしか出来ない身にとってはうらやましい限りである。

まったく、こんな時ですら言葉を選ぼうと四苦八苦してしまうこの小心は何とかならないものだろうか。




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