□導火線、着火
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「ディーノ先輩、あーん」



――これは来たな、と思った。

いや、勘違いされると困るのだが、別に彼女が私のことを特別視しているだの好いているだのと思ったわけではない。大体私と彼女ではどう贔屓目に見ても犯罪だ。年齢的に。

私の脳裏に浮かんだ想像は、もっと子供じみた、ある意味彼女らしいとも言える悪戯の予感だった。予感というか、前兆というべきか。
それなりに付き合いも長いのだ。彼女が何かを企んでいる時の表情くらい、簡単に読み取れる。
まだ未熟だからなのか、それとも持ち前の素直さゆえかは追求しない。

いかにも少女趣味な愛らしいケーキを前にして、彼女はにこにこと笑っている。そのひと匙を私の眼前に突き出しながら、口を開けろとばかりに上下に振って見せるその様は、まあ可愛らしいとも言えなくはない。

たとえ私の予想が当たっていたとして、口を開けた瞬間スプーンが引っ込められるとしても。

彼女の思い通りに釣られるのは少々癪だという思いと、しかし突っぱねるのも大人げないだろうかという葛藤ののち、私は一つの結論を出して、気付かれない程度に苦笑した。
仕方ない、乗ってやるか。可愛い後輩の悪戯ぐらい。

「ほら、先輩早く。あーん」

「……はいはい」

彼女に向って、薄く口を開いた。



途端、小さな匙が強く押し込まれて思わず唇をつぐんだ。
反射的に飲み込んだクリームが喉の奥に張り付いて、少しばかり噎せそうになる。
彼女の細い指がゆっくり引かれて、匙がケーキ皿の縁に戻るのが視界の端にちらりと映った。

「…美味しかったですか、先輩?」

「……あんな無遠慮に突っ込まれては、味なんてわかりませんよ」

「そうですか」

にっこり、と彼女は笑った。その笑みに、ぞくっとした。
年端もいかない少女の癖に、時折垣間見えるこの色気は、いったい何なのだろうか。

「じゃあ、もう少し食べてみてください」



――ああ、そう来たか。

やたら煽情的な声が、耳に付く。
同時に、彼女の唇が触れた。

ねっとりとした舌が、ひどく甘ったるい。
脳髄まで痺れそうなその味に、未だ保たれている理性が冷静に警鐘を鳴らしていた。



「…まだ、わかりませんか?」

そう呟く彼女の潤んだ目が、困ったように垂れた眉が、赤く染まった頬が、やたら可笑しくて噴き出しそうになった。
まったく、今更恥じらうというのか。
この耳年増で、悪戯好きのお子様め。



しかし、そんな子供に劣情を抱きかけている私は、やはり犯罪者なのでしょうか。

(――まあ、如何でもいいか。)

理性などという、つまらないものはさっさと捨ててしまえ。



「ええ、わかりませんね」



いけないお嬢さんには、少しお仕置きでもしてやりましょうか。
良識ある大人としては、当然の対応でしょう。





――さぁ、どうしてやろうかこの小娘。






ディーノさんに夢を見すぎですか。
夢なんだからいいよね。
ディーノさんが色っぽいのがそもそもいけないんだしね。

個人的にディーノさんの年齢は35から45くらいだったらいいなあと思います。



 

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