曉
□しみるゆびさき
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近所の不良たちとのいさかいで顔に怪我をした。
怪我といっても大したことじゃない。ナイフが少し頬をかすっただけのことだ。目立たないし絆創膏を貼る必要もないかな、と放っておいた傷に目ざとく気付いたのは、意外にもあの赤石君だった。
「何をやってんだ。さっさと医務室行ってこい」
「でもただのかすり傷だし……あ」
ためらった私の腕を赤石君は問答無用で掴み、引きずるように医務室へ連れていく。「痕が残っても知らねえぞ」と言う発言と行動が一致していないような気がするのは気のせいだろうか。
道中で幾人かに不審な目を向けられたけど、慌てる私とは正反対に赤石君は一切お構いなくずんずんと進んでいってしまう。おかげで何度かつまづいた。
たどり着いた医務室で診察台に座らされたかと思うと、乾きかけの傷口にぐりぐりと軟膏を塗られて奇声じみた声が漏れた。
「あぐぐぎ」
「相手は誰だ」
「い、言っとくけど負けてないよ。
女の子が悪者に絡まれてたから、かっこよく助けようとしたらその雑念のせいかちょっとミスしただけで」
「んなこと聞いてんじゃねえよ。なんだその理由は。馬鹿か」
痛い痛い、と訴えたら自業自得だと突っ返された。最後にぺちんと絆創膏を貼って、屈んでいた赤石君は姿勢を戻し、くるりと踵を返す。
「……勝手に傷なんぞつけられてんじゃねえ」
――自分はいつも血まみれでぼろぼろの満身創痍になっているくせに、私にはこんな小さい傷も許してくれないのか。
不機嫌そうにむっつり吐き捨てる彼に私の胸がちくちくする。むずがゆくもどかしい、納得できないけど嫌でもないような気持ち。
お父さん譲りという重たそうな刀を背負ったその背中を追いかけながら、まだずきずきと熱感を孕む傷を、私はそっとさすった。
了.
十蔵は赤石先輩と比べるとちょっと甘いイメージ。