曉
□君と私の適切な距離
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剣君は少し接触過多だ。
ボディタッチというのだろうか? 異国の地で生まれ育った彼は、そのお国柄のためかさほど意識することなく私の体に触れてくる。
大体が肩に手を置いたり、背中を軽く叩いたり……といった何気ないものなので気に留めることはないけれど、さすがに抱きしめられてしまうと、そういうことに不慣れな私はどぎまぎしてしまう。
この前の朝食の時なんて、剣君が好きだと言ったおかずを分けてあげたら頬っぺたにちゅーされた。特別な意味なんてないことは重々わかっているし、戸惑うことが逆に恥ずかしいのではとも思うのだが、こればかりはどうにも慣れない。
「――あのね剣君。適切な距離ってものがあると思うの」
「適切な距離、ねえ」
ついに耐えかねて苦言を呈した私に、剣君は腑に落ちないといった表情を見せた。
凛々しい眉がぐにゃりと歪み、唇もひん曲がっている。美男子が台無しだと思う半面、こういう少しも気取らない剣君が好きだ。が、それとこれとは話が別である。
「剣君が自然体なのはわかってるけど。でも、できればもう少しだけ接触を控えてくれると……」
「わかった」
私が言い終わる前に、剣君は快活に笑った。一瞬ほっとしたのもつかの間、私は彼の次のセリフに思考停止した。
「触っても許される関係になればいいんだな?」
「……へっ?」
思わず間抜けな声を上げた私にかまわず、剣君は一人で納得するように頷いた。
「抱き締めたりキスするのは仲間の距離感じゃないんだろ?
だが俺はみょうじに触りたい。それなら違う関係になるしかないよな?」
理解を超えた発言を重ねられ、ますます自分を取り戻せなくなった私へ剣君の手が伸びた。思わず身をすくめた私に大丈夫だと微笑んで、彼は私の左手を取る。
強く握りこまれた握手を、剣君はそっと上下にゆすった。
「つ、剣君?」
「宣戦布告」
そう宣言した彼の笑顔は、あまりにも素敵に不敵で無敵だった。
「みょうじの手はやっぱり柔らかいな。野郎の手とは違う、女の子の手だ」
(まずい……すでに敗北しそう……)
了.
獅子丸はあのカラッとした明るさが、親父さんときちんと差別化されてる感じで魅力的だと思います。