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□例えば在ったかも知れない世界3
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「なッ……!?」
真黒のその言葉にくじらは言葉を失った。
先程述べた通り、書類に記された検査結果は多種多様。
くじらは脳内でサイコロ占いの過去の膨大な検査記録を思い返してみたが――
そんなケースは脳内の何処を探っても見つかりはしなかった。
「初日の検査で、この被験者は“サイコロを何度振っても同じ目のパターンを出す”
――例えば3・2・6・1と言う組み合わせならそれと同じ結果を出し続けた。
二日目の検査では何度サイコロを振っても“絶対に6の目を出さなかった”。
ところが三日目の検査では何度やっても異常結果はなし。
四日目で再び“一度の検査中にサイコロの同じ目を一切出さない”と言う異常結果。
五日日目には“振ったサイコロの目の合計数値が全て同じ”、
六日目には二日目とは逆で“何度振っても必ず6の目を出し続けた”
そして最終日の検査結果は“異常なし”」
「ば……馬鹿言うなよ。いくらなんでもそんな結果出鱈目過ぎんだろ!?」
思わずくじらの声のトーンが大きくなる。
まぐろは眉を寄せながら、しかし冷静に語り続けた。
「……そうだね。あまりにも出鱈目過ぎる。
七日間それぞれ異なる異常な結果を、それも異常なしの結果も含めて観測したなんて
古今東西類のない、前代未聞、空前絶後の事態だよ。
しかも特筆すべきはそれぞれの異常結果が“一度の検査では検知出来ない”事だ。
雲仙くんやめだかちゃんのように統計学的に“明らかに在りえない”事ではなく“在りえそうで在りえない”結果。
このレポートみたいに数日の期間内に検査を数十回に渡って行わなければ、
被験者が異常だなんて誰も気づかなかっただろうね。
―こんなの普通でもなければ特別でもない。そして異常ですらない。
この分析不能な感覚……くじらちゃんなら、もう察しているだろう?」
鼓動が早まる。口内はからからに乾いている。
その結果の異常さ、いや異常では収まらない、底の知れない異質な何か。
その感覚とくじらはかつて相対したことがある。
「そんなのまるで――」
過負荷みたいじゃないか。
不快感にまで及ぶ気持ち悪さは、球磨川禊のそれに似ていた。
逸らすように書類へと移した目線の先。
そこに記載されていた被験者の名前に、くじらは再度息を飲んだ。
一年一組 人吉善吉
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(予想してなかったと言えばそれは大嘘だ)
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