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□ジェンガ崩し
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『善吉ちゃん、おはよう』
「あ、おはよーございます球磨川先輩」
朝の廊下で何気なく交わす挨拶。
話しかければ普通に反応してくれる君の姿。
たったそれだけの事に浸るのは、この三年間僕がそれを待ち望んでいたからだけど、
たったこれだけの事に至るのに、どうしてこんな挙句になるんだろうね、善吉ちゃん。
“普通”に触れるのは、僕等には酷く難しい事なんだよ。
ねぇ、善吉ちゃん。
大嘘憑きなこの世界には、めだかちゃんはもういないよ。
君の大好きな大好きな大好きな女の子は、存在した事実すらなくなっているよ。
それでも君の気持ちは、僕に傾いたりはしないんだろうなぁ。
「なかったことにした」事を積み重ねて続けて
アンバランスに現実がゆらゆらと崩れそうになっても
それでも頑張って積み上げていけば、いつかは理想の形になるのかと思ったけど。
プラスをゼロに出来たって、
プラスをマイナスに出来たって、
マイナスをゼロに出来たって、
マイナスはそれらをプラスにする事は出来ないんだもの。
僕にはそれらをプラスにする事が出来ないんだもの。
僕は可能性を重ねていたんじゃない。
ただ、ジェンガみたいに可能性を抜き取っていただけ。
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(もういっそ、崩してしまおうか)
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前回拍手SSです。