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□例えば在ったかも知れない世界3
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「なんだ……これは……?」
箱庭学園旧校舎、通称“軍艦塔”。
自らの妹に纏わる写真・用品が所狭しと並べられたその部屋で、
管理人黒神真黒は手にした書類に目を通した瞬間、思わず呟いた。
驚愕や焦り、不可解さと言った複雑な色が含まれたその声に、
同室で作業を共にしていた名瀬夭歌こと黒神くじらは振り返る。
「どうしたんだよ、兄貴」
ひょい、と何の気なしにくじらは真黒の手元を覗き込んだ。
書類を掴む真黒の手の震えにただならぬものを感じて、その書類へと視線を移す。
どうやら何かの検査経過のレポートらしい。
検査を実施した日時と回数、数字やその他の事象や被験者の様子が事細かくびっしりと記されており、
その検査は一日数十回、一週間に渡って行われている。
一体何のレポートかとくじらは頭をひねらせて、
その見慣れた数字のパターンを見て――一つの答えに辿り着く。
「サイコロ占い、か」
それはくじらにとってある種馴染み深いものだ。
普通か異常かを明白容易に知らしめるフラスコ計画に関わりの深いその検査。
「御名答。流石はくじらちゃんだね」
「ケッ俺だってフラスコ計画の統括だったんだぜ。
それくらいは把握してるっつーの。
……でもなんだよこれ、検査結果がバラバラじゃねーか。
複数人の検査結果をまとめたにしちゃあ随分お粗末な書類だぜ」
確かにくじらの言う通り、サイコロ占いが実施された一週間、
被験者の普通の結果や異常な結果をそれぞれ出しているがその種類に統一性は無い。
一見、複数人の普通の異常の検査結果が一枚の紙に乱暴にまとめられたように見える。
しかし。
「……くじらちゃん。そう思うのも無理はないけど、
残念な事にこれはたった一人の被験者に対して行われた検査結果なんだよ」