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□例えば在ったかも知れない世界
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 暗闇。失った視力。隔離されたかのような世界の中で、響く。

『善吉ちゃん』『君は』『みっともなく愚直で』『情けなく弱々しい』『けれど』
『そんな君を』『僕は』『とても愛おしく想うよ』『だから』『僕を愛して』
『僕の為に生きて』『僕の為に死んで』

 降り注ぐ言葉は優しい毒の様に善吉の心に沁み込んでいく。
 言葉に反応して顔をあげた善吉の頭を、禊は優しく撫でた。
 二人だけの生徒会室。禊の行為に善吉は僅かに震えたが、振り払う事はしなかった。
 冷たい安堵。温い堕落。腐りきった心。
 傍から見れば善吉の状況は地獄としか言いようがなかった。
 生徒会戦挙の一戦後、視力を奪われても尚心を折られなかった善吉に対して
 禊が下した行為はこれ以上ない程に非道いものだった。
 
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