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寡黙と憂鬱に咲く[2]


6.
最寄りの駅から約10分、大通りを歩き、4つ目の角を右に曲がると、急に人気がなくなって、
ホテル街独特の、陰湿で奇妙で、何とも後ろめたい気分にさせられる場所を、高杉はてくてくと歩き、
指定された名前の建物を探しまわった。

『ホテル・乱花』とは、響きそのものは綺麗なのに、あまりにも包み隠さずで、下卑た名前だと思った。
銀八曰く、値段の割にサービスがいいのだと言う。
18時に入口前。満室なら別の場所へ。そういう約束だった。

銀八は先に来ていて、入口の壁に寄りかかって本を読んでいたが、今日は私服ではなく、スーツを身にまとい、
黒縁の眼鏡までかけていて、なかなか様になっていた。

「待たせたか?」
「大して」
と、銀八は腕時計を見やる。「部屋はとった」

5000円弱の部屋で、学生の視点から考えれば高い。
全て銀八が持ってくれるというので、申し訳ない気持ちも抱きつつ、そこは暗黙の了解で甘えることにしよう、と思い直した。
それよりも、この男はどんな抱き方をしてくれるのか、と猥褻な期待ばかりが膨らんだ。

部屋は暮色の明かりが広がっていて、お互いの顔も半分影がかかったようになり、非合理の場に相応しい環境だった。
呼吸が早まるのを自覚し、高杉は靴を脱いだ。

銀八がジャケットをソファに放る。こういうシチュエーションに慣れているのか、初めての相手を前にしても、
何てことないように、手早くシャツを脱ぎ、ズボンを脱いで、下着を下ろす。
彼が裸になるのを見届けて、高杉も身ぐるみを脱ぎ捨てて、そっとベッドの上に乗ると、
それまで紳士的な物腰だった彼が、急に眼の色を変えて、ベッドに乗り上げてきて、
高杉の身体を押し倒し、

「んんっ!」

唇に噛みついてきた。

息をつく余裕がない。しかもこの男、煙草の吸い過ぎだ。

だが高杉は、その荒々しさと苦々しさにたちまち頭が痺れて、下のそれは早くも存在を主張し始めるが、途切れない接吻の嵐に、
息苦しくなり、逃れようと手で彼の胸を押すも、その手首を掴まれ、シーツに張り付けられた。

「んんうっ、ん、んっ!」
「オイ、舌出せよ、舌っ」

すっかり圧倒されて、銀八の唇を受け止めるので精いっぱいになっていると、威圧的な声で怒鳴られ、
髪を引っ張られると、その暴君ぶりに恐怖しつつ、一方では悦の鳥肌を立てて、高杉は牝の本能に身を委ねるように、
舌を銀八の口に入れた。

舌先を刺激し、吸い合い、歯茎を荒らしあうと、銀八も自分も、漸く陶酔の面持ちになって、
二人して甘ったるい声をあげながら絡み、疲れて緩慢な動きになる前に、彼の方から唇を離し、呼吸を切らしながら、

「どうしてほしいよ?」

と尋ねてきたので、高杉はこの男の性癖を思い出し、

「縛って…」

初めての男に言うには、少し抵抗があったが、言葉にした瞬間、体内の倒錯の血が逆流するのを感覚した。

「はっ、好きそうな顔だと思ったよ」

あの時、男どもに犯されていた自分が、この男にはどう映っていたのか。
きっとこの男なら、高杉の歪んだ気質を見抜いたに違いない。
高杉の言葉を鼻で笑いながら、彼は一旦身体を離して、床で不格好になっているネクタイを拾い上げ、
高杉の両手首を頭上で組ませると、血の流れをせき止めるようにきつく縛ってきた。

これだけで、いくつもの性感帯が無防備になる。興奮にしかめた面で、溜息を一つこぼす。

「手首だけで、いいのか?」

そう言って、食いついてくる気配を見せず、冷静に構えている銀八だが、その股間の変化は一目瞭然で、
間近だと大きさがよく分かる。こんな大きなものが、自分の中に。

「足、も…」
「広げてみな、てめえで」

そうだ。そういう言葉が欲しいのだ。高杉の全身は淫らな歓喜に溢れた。
死ぬほど恥ずかしい。だが、恥ずかしくなければ意味がない。

「そうだ。いい子だなあ…」

素直に開脚し、陰部をむき出しにする少年を、褒めているのではない。軽蔑しているのだ。
否、軽蔑し合っている。
お前だって、こんな自分の身体に興奮して、そのおっ勃てた付属品を、ぶち込んでくるのだろう。

「お前みたいなドM野郎のために、取りあえず持ち歩いてる」

「ドM」という罵り言に、眩暈を覚えた。通勤鞄を開けたかと思いきや、中から取り出されたのは赤いロープ。
SM映画などで使われてそうな代物だ。

「それと、コレ」

銀八もまた、相当な曲者だと分かった。彼の手に翳された瓶の色が、その意味を物語っていた。
縛られた経験はあるが、薬の経験は未だかつて無く、高杉は一瞬、怯んだ。銀八は少年の恐怖心を裏返すように、


「全てを忘れるセっクスがしてえんだろ?」


高杉の膝を折り曲げ、右と左とで、太腿と脹脛をくっつけて縛り、“LOVE DRUG”と明記されている瓶の蓋を開けて、
少年のみずみずしい唇に宛がった。
「これを飲んだらぶっ飛べるぜ」と耳元で囁かれれば、あの好奇心がたちまち首を擡げて、高杉はあんぐり口を開けてしまう。
物凄い量の液体が、容赦なく喉を通って行った。

数分経たずに、身体が熱にうなされ、高杉は呼吸を乱していく。これが…。
薬の感覚に酔い痴れている間に、銀八の手は少年の身体を這いまわり、一番の性感帯ではあるが、軽く扱かれただけなのに、

「ああん!」

腹が大きく波打ち、悶絶の声を大きく轟かせた。
銀八は至極悦の笑みを広げて、今度は口に含んできた。

「ああ、いやっ」

これが、彼の。
彼の奉仕の上手さを、身をもって知ることとなる。薬のせいもあるだろうが、
こんなに貪欲な舌使いをする男は、今までの経験上、存在しない。
根元まで咥えられて、玉のほうも舐められて、身体を捩ろうとするが、満足に動かせない。

気持ちよすぎる。

気づけば、日常では考えられない喜悦の声を、延々と出していた。

「そんなに嬉しいか?それとも薬が効きすぎて、イっちまってんのか?」
「あん、ああっ…あ、やあっ」
「とんでもねえマゾ犬だな」

罵る一方で、その若さゆえの肌の弾力と、稀に見る玲瓏とした雪の白さに眩しさを感じ、
普段は何処となく育ちの良さを思わせる風貌が、一瞬にして娼婦のような顔付きになったことに興奮し、
より勢いをつけて、水の弾けた音を立てて、高杉のものを頬張った。

「あっ、あっ、もうダメっ」
「ダメ?イクって言えよ」

唸るような声で囁かれ、孔に人差し指を突き入れられて、

「イ、 イクうっ」

はしたない悲鳴と共に、吐精すると、頬をすぼめて銀八が吸い立てる。
どのくらい出したのかは分からないが、眉をひそめた銀八は白濁を口に収めたまま、
身体を起こして高杉の頭上に立ち、少し前かがみになると、
そのまま唾を吐くように、口内の汚物を高杉の顔面に吐き飛ばした。

自分の放射した物で、顔を汚され、鼻腔を塞がれて、困惑したまま高杉は何度か咳き込んだ。
酸素を吸い込む動作さえも許してくれず、すぐに唇を塞がれる。

「んふっ、や、ん、んっ、くる、しっ」
「俺が優しく抱くような男に見えたか?」

それなら最初から約束などしない。

「いっそ犯り殺してやろうか」
「ひいっ!」

両方の乳首を摘まれ、ぐいっと引っ張られる。
くりくりと先端を捻られ続けると、高杉は首を左右に振ってあられもない声を出すが、
愛撫は止むことなく、すっかり張った乳首を吸われ、腋下を舐められ、耳の中にも舌を差し込まれ、
尻の穴にまで舌がそよいだ頃には、高杉は全身が性感帯と化し、無差別に声を上げるようになっていた。

「あっ…はあ、あっ、あぁん…んあっ」

最も汚い恥部を舌で蹂躙され、高杉は汗だくの裸身を夥しく痙攣させて、女のような艶やかな声を漏らしていた。
上も下も熱くて、気が狂いそうだった。

「苦しいか?」
「ん、うう…っ」
「泣き叫んでもらうのは、これからだからな」

ぞくりとした。
二本の指を頬張って、唇から糸を引くほどに唾液をつけると、彼は舌で解したそこに滑り込ませた。
いきなり獰猛な動きで中を攪拌してやった。

「ああっ、んあ!あっ、あっ、やあっ、やっ!」
「ぐっちょぐっちょだなオイ。二本じゃ足りねえだろ?」

透かさず3本目が挿入され、ほとんど肉根並みの太さになると、声も先刻にも増して大きくなり、
壺を発見されると容赦なく其処ばかり突かれて、

「も、イ、ちゃうっ」

本日二度目の射精を果たした。彼は高杉の性器から毀れた白濁を掌にたっぷり付着させ、それで胸を撫でまわしてきた。
滑りのある手は舌と同じ働きをし、乳首に擦りつけられる度に、まるで舐められているような感覚になる。

「ああう…」
「そろそろ俺にもしてくれよ」

身動きが取れない高杉の面上に跨り、妖艶な微笑を向けて、静かに腰を下ろし、

「咥えな」

うっとりするほどの逞しいそれが、高杉の形のいい唇を抉じ開けてきた。
高杉の奉仕がどの程度かを覗っているのか、暫くは必死にしゃぶりついている彼を、黙して観察していた。

「舌使いはいいが、スピードがねえな」

言うと、高杉の頭を掴み、自らも腰を振って、ずかずかと高杉の口内を荒らしにかかった。

「んうっ!んんう!」
「っ、これくらいじゃ、ねえと、なっ」

無理やり喉を貫かれていることに頭を痺れさせ、高杉は悩ましげに眉をひそめ、息を吸う度に感じ入った声を混じらせる。
ところどころで聞こえる甘い呻きが、銀八のものかと思うと、もっと彼を感じさせたいと、
性奴隷のごとく奉仕に励む。

「っあ」

追い込みに入ると、控えめに甘ったるい声を彼があげ、それに煽られて、高杉も唇に力を入れ、
どっと押し寄せてきた苦い波を、かろうじて口内に収め、飲みほした。
蘇りが早いのか、吐精の余韻に浸ることもなく、高杉の手首に触れ、

「緊縛ごっこは終わりだ」

手も足も、ロープを解かれた。急に手足が自由になって、拍子抜けしていると、銀八に腰を掴まれ、
身体を返され、うつ伏せの体勢になると、次の瞬間、腹から下が浮き、何事かと思うと、
いつの間にか逆立ちの恰好にさせられていた。

「この体位でぶち込んでやる」

天井に上向いた足を割り、入口を露出させると、銀八は重力に任せて腰をぐっと沈めた。


「あ!あ!あ!」


何だコレ。
信じがたい未知の感覚に、高杉は悲鳴に近い嬌声を上げる。
こんな恰好で、しかも焦がれていた彼の男根が、自分を貫いている。

「はっ、いいぜお前、たまらねえよっ」

獣になり下がった雄と雌が、下半身をぶつけ合う。肉と肉の摩擦音、いやらしく弾ける水音、声。

「だらしねえ声ばっか上げやがって、そんなにイイか?おら、何とか言ってみろっ、この変態野郎!」
「んあっ、あはっ、あっ、あっ、あっ」
「気持ちイイって、そのぐちゃぐちゃの顔で泣いてみろよ」
「っ、イイっ」

銀八の言葉が、高杉の本能を揺さぶってくる。
もっと、と、高杉のどん底の欲望が暴れ始めた。


「気持ち、イイっ」
「もっと欲しいか?」
「ああん、欲しいっ」


芝居ではなかった。
こういう言葉は、実際は口にするほどでもない時に使うのが大概で、自身と、相手を昂ぶらせるための道具だった。

だが自分の心臓まで貫きそうなコレは、何と言う、勇ましいぺニスだろうか。
全身が溶けてなくなってしまいそうだ。

「頭に血ィのぼっちまうぜ」

イキそうなところで、身体を下ろされ、物足りなくなると、すぐさま今度は仰向けの体勢にさせられ、
張り裂けそうな怒張を突き埋められた。

「ああっ、イイよぉっ」

だからもっと奥まで欲しい、と。
求められるより先に、自分から進んで淫猥な言葉を吐いて行く。
こんなとんでもなく下劣な自分が存在するのかと、もう一人の自分が見下ろしている。
数回正乗位で犯され、繋がったまま、立たせられ、高杉は壁に手をついて尻を突きだした。
荒々しく腰を揺さぶられ、前のものを扱かれて、呼吸のやり場がなくなり、高杉の頭は真っ白になる。


「イクっ、イクう―!」


絶叫に近い声。
この純白肌の少年の、内に秘めた浅ましさ、けたたましさを目の当たりにし、銀八も頭が痺れて、

「イっちまえよ、ド淫乱がっ!」

自らも高杉の猛獣ぶりを上回る勢いで、身体をぶつけ、少年の熱い室の中で果てた。
既に3回も吐精している高杉は空気が抜けたようにずるずると崩れ、手足を投げ出そうとするが、そこで髪を掴まれ、

「おい、終わってねえよまだ」

寝るな、と叱咤され、無理やり立たされる。

「頭ぶっ飛ぶまでヤりてえんだろ?」
「ん、あ…」

身体を抱えられ、ベッドに放られる。上体を起こす気力がなく、半ば強制的に四つん這いにさせられる。
薬の効き目は相当なものらしい。高杉のそこは未だひくついて、しかも欲の象徴は、既に首を擡げている。

「んんっ!」

すんなりと裏の路は、銀八の侵入を許した。許したと言うよりも、悦んで招いたのだ。
こんな男が、いるのかと。

「は、あっ、あっ、うあっ」
「っ、どうなってやがんだ、お前の中っ。締め付け方半端ねえぞ」

鍛えられた下腹部を高杉の背中に押し付けてきて、その手を高杉の前にまわし、透き通るような桜色の突起を捏ねくり回す。
何度か突き穿ちをされた後、背後から銀八に抱きしめられ、上体を後ろに反らされる。
胡坐を掻いた彼の上に、M字開脚で腰を沈められた。


「あぁっ、すごいっ」


深い結合だった。そのまま下から突き上げられる。

「何が凄いって?」
「わかん、ないっ、凄いのっ、すごいっ」

気難しい人間ほど抱いてしまう、余計な思考の一切が除去され、空っぽの状態で、ただ熱いそれに貫かれている。
彼の言う、「甘い地獄」。
それはもはや、二つの肉の相性が最高値に達した時の、「居心地の良さ」だった。

「男のちンぽが好きなんだろ、お前。クールな面して、どうせ四六時中、ろくでもねえことばっか考えてんだろ?」
「んっ、ああっ」
「ちンぽのことばっか想像して、ここ疼かせてんだろ?」
「やっ、そ、んな言い方っ」
「感じてるくせに」

羞恥の念は、高杉にとって悪い感情ではなく、むしろ総毛立つほどの、何者にも勝る快感であった。
辱めを受ける自分、恥ずかしむ自分。そんな自堕落に追い込んでくれる男を、自分は探し求めていたに違いない。

「お前の口から聞いてみてえな。男のちンぽが好きだって」
「あ、やっ」
「ちゃんと言えたら、このままイカせてやる」

緩急つけながら耳元に囁かれる。今の高杉に、本能に逆らう余裕などない。

「ち…ンぽ…」
「ん?」
「…ちン、ぽが…好き…っ」

言い切って、辺波のような痺れが押し寄せてくる。
下から高杉を串刺しにしている、肉の厚みもますます膨張し、生々しい衝突音を響かせながら、
中心部を突いてきた。

「ああっ!あ、イ、クっ」
「はっ、こっちに唇よこしな」
「あ…んうっ、ん…っ」

言われた通りにすると、銀八に唇を吸われ、下の激しさに眩暈を起こして、
もうほとんど空吹きさせる感じで放たれると、二人して後ろに倒れ、
汗を噴き出しながら、何度も荒い呼吸をした。

「あちい…」

手を団扇代わりにして、銀八が風を仰いだ。
半ば放心状態で、高杉は銀八の胸の上で、心臓の音を聞いていた。とても早い。

「ちっと、楽させてもらうぜ」

自分の身体に被さっている高杉の上体を、再び天井に向けさせ、繋がりを解かないまま、
腹筋に力を入れてきた。

「あっ…はぁっ…ん…っ」
「騎乗位ならもう一発できそうだからな」

二つの卵型のそれを掴まれ、撫でられる。
疲れ果てて、その結合部以外の神経がまともに働かないまま、高杉の身体は上下していた。

「こう見ると、綺麗だなお前…」

彼もあまり体力が残ってないのか、ゆっくりと、存在を知らしめるように動いている。
伸ばしてきた手が高杉の頬を辿り、鎖骨を撫でて、胸を愛撫してくる。

「これ、何時つけたんだ?」

セっクス中に初めて、初対面時の物静かな口調で尋ねてきたので、

「…ちょっと、前…」
「太腿のも?」
「ん…」
「蝶と、大蛇とはな。そんなに自分はエロいって主張してえのか?」

官能的な意味をこめて刻んだ、という部分では、銀八の言葉は当たっている。
だが、そこまでして何故、と突っ込まれると、適切な答えが見つからない。
事実、そんな質問をしてきたのは、この男が初めてだった。

「願望、だと…思う…」
「願望?」

銀八が不可解な顔をする。

「雁字搦めにされて、食われちまいたいって、願望か?」
「………」
「…ああ、なるほどな」

その時の高杉の反応を見て、銀八は苦い笑みをこぼした。


「要は寂しい人間なわけだ、お前。今時の若者の、象徴みてえじゃねえか」


この時銀八は、自分のことも含めて言っているのだと、後に理解する。

「せめてココは、思いっきり悦ばせてやらねえとな」
「あっ」

銀八の手に腰回りをぐっと掴まれ、透かさず蘇りを見せた肉塊が、忙しく動きだした。

「あっ、あっ、イ、はぁん!ん、んふっ、あっ」
「ほら、サボんなっ、さっきみてえな腰つきしてみろ」
「いあっ、あ、ああぁっ、く、っあ」
「大好きなちンぽが、お前の中で暴れてんぜ?」
「やっ、あぁはっ、もっ、」
「イっちまいそう、か?」

呼吸を荒げながら、銀八は下腹部を引き締め、盛んに打ち付けて、追い込みをかけた。


「も、許してっ」


ぼろぼろと涙を流して、その後は何かが突きぬけて、下が溢れて、高杉は糸が切れたようになって倒れ込み、
咄嗟に反応した銀八の腕で、抱きとめられた。

ホテルを出た時は、入室した時よりも夜色が濃くなっていて、身体もだるくなっていたから、
一日の終わり、という感じがした。

「またシたくなったら連絡くれ。今日みてえな時間にはなるが」
「うん」

今の高杉のそこには、銀八の欲塊が刻印のごとく染みついてしまっていて、自分としては明日にでも、絡みたいと思っていたが、
二度目以降の情事となると、その先の“面倒事”を気にして、途端に恐怖心が湧いて、
その時は「明日がいい」などと言えなかった。
この男も他に“遊び相手”がいるだろうし、自分も三日後に約束が入っていたから、
それを考慮した上で、連絡しようと思った。

通りに出たところで、銀八と別れる。
二人に大分距離が出来ると、銀八が携帯を構え、電話をし始めた。誰だろう。他の相手だろうか。
暫しその後ろ姿を観察した後、閉店間際のカフェでコーヒーをテイクアウトし、外で一服して、高杉は帰ることにした。


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