06/09の日記

22:21
鉢竹
---------------


ぐるんと世界が回る。
体を反転させて重心を保とうとしたが、足を払われて体は宙に浮く。
視界の隅に三郎の笑う口元が見えたが竹谷は衝撃に備えて目を瞑った。

どさっ

「私の一本だな」
「…っはぁぁあああ。参りました!」

詰めていた息を吐き出して目を開ければ勝ち誇った笑みを浮かべる三郎がいて、竹谷は両手を上げて負けを伝えたのだった。
三郎から差し出された手を取って立ち上がり、土を払うと悔しそうに顔を歪める。

「ハチは相手の攻撃を受けるとき一瞬足元が疎かになるんだよ」
「分かってんだけどなぁー。癖ってなかなか抜けなくて…」
「六年になるまでに直しておかないと文字通り足を掬われるぞ」

三郎の忠告に苦笑して、当分の課題はこれだなと決意を新たに竹谷は拳を強く握った。
そんな竹谷の横で三郎がまあ、と口を開く。

「まあ、あれだけ動ければ次の実技試験は大丈夫だろう」
「う〜ん…。三郎がいうなら心強いけど、もうちょっと俺は練習してくわ。三郎先に帰っていいぞ。付き合ってくれてありがとな!」
「…………はぁぁ。一人より二人の方が分かり易いだろう」

私も手伝ってやると、ぶっきら棒に言うのは三郎の照れ隠しと竹谷は分かったので破顔して礼を言った。
違う場所に移ろうと告げてその方向へ行こうとしたところで、三郎に後ろから腕を取られた。
振り向こうとしたら、また足を払われ、瞬時に受け身を取ろうとした体勢を今度は別の腕で肩を押されて崩される。
地面に倒れ込む時にぎゅっと目を瞑った竹谷は近付いてくる三郎の気配の違和感に眉を寄せた。

「っ!」

地面に背中のつく衝撃と同時に額に柔らかいものが押し当てられる。
驚いてすぐに開いた瞳には、すぐ間近にある三郎がしてやったりな笑みを浮かべているのが映った。

「な、なんっ!??」
「あとお前、倒れ込む時に目を瞑る癖も直した方がいいぞ」
「へ?あ、うん。って!三郎!?」

先行ってるぞと次の組手の練習場所へと言ってしまった三郎を驚いた顔のまま見送った竹谷は、頬にじわじわと熱が集中してくるのを両腕で隠した。
先程よりも悔しい思いが竹谷の中に湧き上がる。
腕を解いて、口付けされた額に触れてまた顔を赤くする。

「くっそ!やられた!!」

敗北感に喚けば、どこからか笑い声が聞こえた気がして竹谷は不貞腐れたように三郎が行った方を睨んだのだった。



降伏したのは恋心



end

鉢→←竹で、いつまでも自分の気持ちを認めない竹谷に負けを認めさせて竹谷から告白してくるように仕向ける三郎の話。

前へ|次へ

日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ