05/27の日記

23:11
鉢竹
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何を狙ってなのか、教科担当の先生から言い渡された課題にろ組皆が戸惑ったのを覚えている。
戸惑ったのは最初だけで、状況に慣れすぐに対応する事を大切とすることを学んできた忍たま達はすぐにそれを受け入れ各々の中で答えを出した。
今日はその課題の最終提出日なのだが、三郎の持つ紙は白紙のままだった。

「……何を書けばいいんだ」

一文字も書かれていない紙に頭を抱えてしまう。
教科も実技も優秀な成績である三郎だが、こういった自分の内面と向き合う課題は苦手だった。
本心ではないにせよ合格を貰える文章を書けばいいとも思うのだが、上手く先生を納得させる言葉も見つからない。


「三郎!これ今日までだよな?」
「ハチ」

能天気な顔で文字で埋め尽くされた課題を手に持って振る竹谷が近付いてきた事に、つい恨みがましい目を向けてしまう。
そんな三郎の反応に驚き目を瞬かせている竹谷から課題の紙を奪い取る。

「ちゃんと書けたのか?どうせハチの事だから適当に書いたんだろう。期限もぎりぎりだしな」
「おい!俺だってちゃんと書いたっつーの!!下級生の宿題とか見てたら遅くなったんだよ!」
「ふーん…」

おざなりな反応を返して竹谷の課題を見る。
軽く目を通せば不備はなく、確認のためではあるが内容も知ってしまったが竹谷は良い出来だろ!と寧ろ胸を張って来た。

「ま、ちゃんと書けてはいるな」
「だろ!」
「ハチにとっての『幸せ』ってこれか?…安いな」
「うっせ!俺は身の周りにある小さな事でも幸せを感じられるんですー!」

細々と日常にある幸せについて書かれた紙を振れば、竹谷は唇を尖らせる。
その視線が三郎に置かれている白紙へと移ると驚いたように目を見張って紙と三郎を交互に見た。
睨んでそれについて口を出すことを止めると竹谷は苦笑して頭を書いた。

「どーせお前の事だから、難しく考えてんだろ?簡単でいいんじゃねぇの?」
「ハチのは簡単すぎる!」
「でも本心だし、間違ってはいないだろ?」

そう笑った竹谷に三郎は何も言い返せなかった。
そもそもこの課題にただしい答えなんて無い、寧ろ自分の中でそれを見つけること、それが出来れば課題は達成したと言えるのだ。
だが、それが三郎には難しい。

他者に変装して心の内すらもその人に成りきった三郎は、自分の感情というものを内の最深へと追いやっていた。
それを掘り起こせば自分の築いてきたものが崩れてしまうが、内を出さなければ課題は達成できない。

「やっぱ難しいこと考えてんだろ!」

ぽんと竹谷の手が三郎の頭に置かれて、顔を覗き込まれて笑われる。
揄う笑みではなく呆れたような、仕方がないなといったような笑みで嫌な感じではない。

「もっと気楽に考えろよ。『幸せ』なんて人それぞれだし、俺には三郎の答えは出せなけど助言ぐらいできるぜ」
「ほう。では是非ご教授願いたいな」
「幸せなんて深く考えないで、三郎が楽しいとか嬉しいとか思った事でいいんだよ!」
「それじゃ課題の答えにはならない」

何言ってんだと竹谷に溜め息をつけば、竹谷もそれに溜め息をつく。
三郎は難しいな、と笑った顔にべちんと手を当てて、その手でしっしっと手を振れば竹谷はそこから素直に立ち去っていく。
一瞬、寂しさを覚えたことに首を傾げて、三郎は再び白紙の紙へと向かい合った。



end

鉢(→)竹で、三郎が自分の心に鈍いです。
というか麻痺していて、鈍感な様子に、明らかに竹谷が好きと態度で分かるのに自分で分かっていない三郎に他の五年がやきもきしていればイイです。

竹谷は他人の感情に敏感ですが、自分に向けられる好意には鈍感です。

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