綾タカ

□夜の隠れんぼ
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幼子の遊びの様に嬉しそうに告げるタカ丸に、綾部は穴の中からただ一言。

「おやまぁ」

と言うだけで、それでもその言葉にタカ丸は満足したように笑ったのだった。

「もぅ!滝夜叉丸君と三木ヱ門君も、綾部君のこと探してるんだよ!」

そう言ったタカ丸の声色には責めは見受けられない。
そんなタカ丸から綾部は視線を穴の底へと移した。

「すみません。こんなに遅くなるとは思わなくて」

熱中し過ぎてしまいました、と言う綾部は見るからに反省しているようだった。
顔を伏せている綾部の姿に、タカ丸はふふっと笑みを漏らした。
その声を聞き留めた綾部は、視線をタカ丸へと戻す。
何処か可笑しそうに笑うタカ丸は、穴の底から不思議そうに見上げる綾部の藤色の瞳に気が付いた。
それにもう一度ふふっと笑う。


「何時もと逆だね」


何時もは僕が穴の中で反省してるのにね、そう言ってタカ丸は少し嬉しそうに微笑んだ。
そして、そっと綾部に手を差し出した。

「上がろう。滝夜叉丸君と三木ヱ門君が待ってるよ」

その手を握り返されて、タカ丸が綾部を引き上げようと力を込めると、突然、身体が前へと傾いた。
自分が込めた力より更に強い力で引かれたタカ丸は、穴の中へと落ちて行く。


衝撃に備えて反射的に瞑った瞳は、どさっという音に恐る恐る開かれる。
ゆっくりと蜜色が姿を現すと、その眼前には己を映した藤の色。
タカ丸を受け止めたのは冷たい土ではなく、温かい身体だった。

顔の近さに慌てて離れようとするが、引かれた方の手は繋がれたままで、指を絡められた。
その手が引っ張られるものだから、美しく整った顔に再び引き戻されてしまう。


「あの……、綾部君?」

居た堪れなくなって己の下にある綾部に問い掛けるが、返事はない。
代わりに、と言わんばかりに藤色が隠されて、その意味を理解してタカ丸の頬は朱に染まる。

少しの躊躇いの後、重ねた唇に笑みが浮かぶ。
感覚でそれが分かって、でも瞳を開けてそれを見る勇気がないタカ丸に、綾部は更に深く口付けた。
唇を割って侵入した舌はタカ丸の口内を動き回る。
舌を絡めて、その根を強く吸われるものだから、呼吸が苦しくなって口を離そうとするが、いつの間にか繋いでいない方の手がタカ丸の頭の後ろに回り、逃げられない様に固定される。

「…っ、ふぁ」

一瞬緩められた手に、喘ぐように息を吸うタカ丸はその微かに示された優しさでさえ綾部の罠である事を知らない。
息苦しさと快楽で潤んだ蜜色を開けば、同じ様に熱を湛えた藤色とぶつかる。
唇を離し、タカ丸の耳元に綾部は唇を寄せる。


「タカ丸さん、大好きです」


口付けの合間に囁かれた言葉に、タカ丸の身体は赤く染め上がり、小さく頷いた。
そして今度は自分から、綾部に口付けを落としたのだった。






end

→あとがき

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