綾タカ

□冬至の柚湯
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湯に浸かり、タカ丸は綾部の隣に腰を下ろすと、近くにあった柚を手に取り顔まで持ってくる。
辺りにふわりと広がる柚の香に、気分がよくなる。

「そうなんだぁ。僕の育った町にはそういうのはなかったから、知らなかったよぉ」

柚を鼻にくっ付けて綾部の方を見ると、タカ丸はふにゃりと笑った。

「ふふ。これで僕も今年の冬は健康にすごせるね。柚を持ってきてくれてありがとぉ綾部君」

心底嬉しそうに笑うタカ丸を見て、綾部も嬉しくなる。

「どういたしまして。タカ丸さんに喜んでいただけて、私も嬉しいですよ」

そう言って綾部が微かに笑うと、タカ丸はちょっと驚いたような顔をした後、頬を染めて微笑んだ。
その笑顔に見惚れていた綾部の頭に、思い切り柚が当たった。
無表情の中にも不機嫌を含ませた瞳で柚が飛んできた方向を見ると、滝夜叉丸と三木ヱ門が口喧嘩から発展して柚を投げ合っていた。
先程の柚はその流れ弾らしい。
綾部は、そんなに事に使うために柚を持ってきた訳ではないと投げられる柚を見ていると、ふと頭を撫でられた。

「大丈夫?綾部君」

綾部の頭を撫でながら顔を覗くタカ丸と目が合う。
頭を撫でられながら綾部が頷くと、タカ丸はよかったぁと言って柚を投げ合う二人に目を向ける。

「二人とも元気だねぇ。この分だと皆健康に冬が越せそうだね」

「そうですね。あの二人は自惚れ馬鹿だから、風邪なんて引きませんよ」

何とかは風邪を引かないと言いますしと続ける綾部に、タカ丸は困った顔しかできない。
すると、地獄耳な二人に届いたのか、二人から反応が返る。

「何だと阿呆八郎!!三木ヱ門ならまだしも、この才色兼備、眉目秀麗な滝夜叉丸様が馬鹿な訳なかろう!無論、風邪も引かん!!」

「そうだぞ喜八郎!馬鹿な滝夜叉丸と違って、私は委員会で鍛えられているんだ、風邪など引くものか!」

互いの罵りに互いに気付き、再び喧嘩が始まりそうなのを見て、タカ丸は慌てて二人の間に入る。

「ま、まあまあ、二人とも落ち着いて。僕は滝夜叉丸くんも三木ヱ門君も、綾部君も皆で健康に冬を越せればいいな。元気に春を迎えて、また冬に皆で柚湯に入れたらいいよね。」

そう言って笑ったタカ丸は、今日は早くに沈んでしまった太陽のようだった。
そんな笑顔を見せられたら、二人も静かにならざる得ない。
何より、これ以上タカ丸を困らせたらどうなるか、タカ丸の後ろにいる綾部が怖い。
二人が大人しくなると、タカ丸は嬉しそうに笑った。

「あったまるね〜」


今度こそ四人でゆっくりと柚湯に浸かったのだった。





end

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