孫富

□呪いを解くには愛の口付けが必要です
2ページ/3ページ


「…何を、すればいいんだよ……」

「作兵衛!」

それはそれは嬉しそうに笑った孫兵は、恋人へとその喜びの意思を表す様に抱きついた。


「何すればいいんだよ」

「ああ、そうだ…」

そう言ったきり黙ってしまった孫兵に、作兵衛がその顔を見遣ると本日二度目の口ぽかんである。

孫兵はうっすらと頬を染めていて、とても言いにくそうに視線を彷徨かせている。
珍しいのを通り越して、こんな孫兵を見るのは初めてである。
少しの間、言いづらそうにしていた孫兵は漸く作兵衛に視線を合わせた。



「…解毒には、…口付けが必要だ」



今日は珍しいことが沢山起こるなあと、作兵衛は頭の隅で思う。
いつもは、確りしていて何事にも自分の行動することに自信を持ち躊躇のない孫兵が、顔を赤くしていた。
そしてその意味を正確に汲み取って、作兵衛は笑う。



なんて、なんて不器用な人なんだと愛おしくなる。



何も行ってこない作兵衛にちらちらと視線をやる孫兵を感じて、仕方ないなぁといった風を見せてやった。

「しょうがねぇなぁ。…お前が動けなくなんのも困るから、口付けしてやるよ」

作兵衛の言葉に明白に顔を綻ばせた孫兵に、本当に仕方のない奴だと作兵衛は思う。
ただ作兵衛から口付けて欲しいだけだろうに、毒人間なんて嘘付いて。
解毒なんて嘯いて。

自分で言って自分で恥ずかしくなって、何がロマンチストだと思う。
きっとそんな我が儘は自分だけなんだと思うと、許してしまう自分に笑ってしまう。



「孫兵の毒が解けますように」

そう言って作兵衛は一つ前へと身を進めて、相手の唇に自分の唇を近づけると孫兵の目が閉じられる。
その唇へと触れながら作兵衛は、そういえばこんな物語があったなと思った。





end

→あとがき
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ