孫富

□二人の時間
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「何?」

「いや…部屋で待っててもいいぞ?」

「いい。作兵衛と居たいから」

日誌を書き進めながらちらちらと孫兵を見ていた作兵衛に孫兵が問い掛けると、連れない言葉が返って来た。
孫兵の言葉に顔を赤らめて勝手にしろと日誌へと呟くと筆を動かす作業を再開する作兵衛を孫兵は面白そうに眺めていた。


筆の動きだけが響く教室でそれでもこの空間が窮屈じゃないのは作兵衛の存在があるから。
することがなくとも、作兵衛を見ているだけで時間が潰せると胸中でのろけた孫兵はふと窓から差し込む夕日の光と同じ色をして輝く作兵衛の髪に目を奪われる。
ジュンコと同じ色。
始めはそう思って好きになった髪の色だが、今はジュンコの肌色を見て作兵衛を思い出してる。
一番大切だったものが変わった瞬間は何時だったか。
笑みを浮かべて作兵衛の顔へと視線を移すと、伏せて下を向いていた瞳が此方を見ていた。


「何だよ…」

「綺麗だな」

いつの間にか作兵衛の髪へと触れていた指先を梳く様に滑らせて微笑んだ孫兵に、作兵衛はその髪より赤く顔を染め上げた。

「お、お前、男に可愛いとか綺麗とか言うな!!」

「嬉しくないの?」

「嬉しい訳あるか!!つーか、綺麗とかお前の方が似合うだろっ」


「そう?ありがとう」

「……お前は、恥ずかしくねぇのか」

別に作兵衛からの言葉だし、と言い返す孫兵を見て作兵衛は頭を抱える。

「何で俺の方が恥ずかしくなるんだよっ!!」

先程から筆を走らせるも全く進んでなかった日誌へと顔を伏した。
腕で赤くなった顔を隠すが殆ど丸見えで意味がないのだが、その事に気付いていない作兵衛が可愛いと孫兵は言葉にしそうになって止める。
暫く思案した後、口を開いた。


「作兵衛、好きだよ」



突然の言葉に呆然とする作兵衛に孫兵は首を傾げた。
普段口数の多い方ではない孫兵だが作兵衛と居る時はそこそこ喋るのだが、言葉が足りない事が多い。
それに本人は気付いておらず、それが一層作兵衛をやきもきさせるのだが。

「な、な何だよ!?っ突然!!」

「だってさっき、可愛いって言われるの嫌だって言っただろ。好き。だから可愛いと思う。好きだから綺麗だと思う。好きだから触れたいと思う。好きだから、口吸いしたいとも思う」


孫兵の一言一言に段々と赤くなる顔を腕で隠して俯く作兵衛にそっとほくそ笑んで紅色の髪へと手を伸ばした。
一房掴んで軽く口付ける。
下を向いたままでそれに気付かない作兵衛の頭を突いて自分の方へ顔を向けさせる。

「早く終わらせて僕の部屋に行こう」

「お、おうっ」

赤い顔についてはは触れずに孫兵が作兵衛から離れると、どこかほっとしたように肩を下ろす作兵衛に視線を向けながら孫兵は、部屋でどうのように作兵衛を可愛がってやろうかと頭を巡らせることにした。




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