孫富
□気付いて
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眼前で繰り広げられる光景に僕は目を離さずに集中した。
ドクタケにもどこかの忍者隊にも今は気付かれていないようだが、相手はプロだから気は抜けない。
取りあえず、何でいがみ合ってるのか分からないのではこちらも動きようがないので、僕は感覚を研ぎ澄ませた。
生物委員に入って日々虫探しをしているからか元より細かい事が気になる性質からか、ある程度集中すれば相手の気配や声が分かるなど、感覚が鋭いのは僕の特技の一つだった。
静かに集中して聞こえてきたのは、饅頭は薄皮派だの粒餡派だのと実にくだらない争い事で、僕は早々と集中を解いて切り上げる。
どんなにくだらない内容でも、巻き込まれるのは御免なので僕はそのまま事が過ぎるのを待つことにした。
ふと隣が静かなのが気になり顔を向けてみると、富松が自分の思考に集中していた。
何やら難しい顔をしているが、前への警戒が甘いんじゃないかと心配になった僕は富松に近付くと肩を指で突く。
ぱっとこちらに向けた富松の顔が息の掛かるほど近くに来て、僕は驚く。顔には出さないが。
するともっと驚いた顔をした富松が口を開くのを見て、僕は瞬時に口を塞いだ。
ここで声を出されたら居場所が見付かってしまう。
手で富松の口を押えたまま、僕は自分の手の甲すれすれまで顔を近づけて富松の目を見て囁いた。
(しっ!見付かるよ、富松)
それに小さく頷く富松が幼子みたいで可愛くて思わず口元に笑みをが出来てしまうが、俯いてしまった富松には見られなかったみたいだ。
僕も取りあえず敵を見ている体を続ける。
ちらりと目線だけを富松へと向けると、まだ顔を伏せたままで動かずに何か考えているみたいだ。
僕はそんな富松が何を考えているのか気になった。
この状況で未だに富松の考えを占めているのは何なのだろうか。
知りたいと思う反面、知るのが怖いと思う。
好きだから、君の心が知りたい。
でも知るのが怖い。
だから
早く
気付いて
君を見る僕に
空気が変わったのに僕は気が付くと、前方へと向き直る。
どうやら、変な争い事は起こらずに済みそうだが、憤りが収まらないのか歩き方が粗雑になっている。
それは僕達が隠れていた茂みにまで届いた。
がさりと葉が揺れて、それに隣の富松が顔を上げた気配が伝わる。
戻ってくる気配がないか見てくると富松に言い置き、僕は少し離れる。
自分の気持ちを落ち着かせるのと、先程の忍者達が完璧にここから離れたのを確認して僕は富松の元へと戻った。
富松は少し赤い頬に手を当てながらこちらを見ている。
やめて欲しい、そんな顔されると、やっと落ち着けたこの気持ちが振り返しそうで。
富松への独占欲が剥き出しになりそうで。
君の一つ一つに惑わされる僕の気持にもなって欲しい。
君が愛おしい
君が欲しい
早く
気付いて
僕に
end
→あとがき
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