鉢竹

□負けない涙
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負けない涙
鉢にょ竹




ぎりぎりと締めつけられる手が痛くて解こうと力を込めると、逆に力を込められて押し付けられた。
乗られている事で圧迫される腹に更に体重が掛かり苦しくなって相手を睨むと、その唇は弧を描いている。
体勢もあるのだろうが、どう頑張っても覆せない力の差を相手に見せつけられているのが竹谷には悔しかった。


「何だよ、その目。悔しいなら抗えば?」

「く、っそ」

身体が押さえ付けられている所為で声が詰まるのが、押し退けたくてもまず手の拘束を解かねばならないのに、びくともしないばかりか、自分の手が震えてしまうのが、嘲笑う相手に見下ろされるこの状況が、悔しい。
竹谷がぎりっと歯を噛みしめれば、相手は笑みを一層深くして重心の位置を変えた。

膝で両腕を封じられ、それを解こうとしても相手のほとんどの体重がそこへと集中しているのだから無理だ。
ひとつの動作に対して反応を示す竹谷を面白そうに声を出して笑った相手は、ゆっくりと衣の合わせ目へと手を伸ばした。

「や、やめろっ!!」

「だからさぁ、嫌なら私を押し退けて逃げればいいだろ?」

可笑しそうに言う相手を、竹谷は再度睨む。
そんなところで相手の動きが止まる筈もなく、解かれた衣の下の肩衣の更に下へと手を進められた。

「やだ、やめろっ!…鉢屋っ」

名前を呼ばれても全く反応を示さない三郎から逃れるべく竹谷は肩を捩るが、両腕は三郎の膝下にあるので何も変わらない。
でも三郎の指が進む先にあるものを見たくなくて、せめて首だけでも逸らすとぎゅうっと目を瞑った。

びりびりと破かれる音に全てが暴かれてしまう。
圧倒的な力の差を見せつけて、それだけで満足しない三郎はこうして竹谷に現実を見せつけるのだ。
露わになった肌に指を這わされてびくりと身体を震わせて更に強く目を瞑った竹谷を、三郎は顎を掴んで引き寄せる。


「目を開けろ」

「…………」

「…このまま犯すぞ竹谷」

「……っ」

大きく身体を震わせて、竹谷は三郎に瞳を見せる。
三郎は先程の嘲笑を引っ込めていて真面目な顔をしているが、見下しているのは変わらない。

「ひっ」

突然触れられたそこに声を上げて再び目を逸らそうとするが、三郎の手によって阻止される。
自分の胸元へと視線を固定されて、片方の手で主張する膨らみを掴まれ、目の前で押し上げられた。
それは竹谷が男ではないことの証だ。

「や、め、…ろ」

か細くなる声が止められない。
唇が震えてしまうのは三郎に対する怒りなのか、まだ僅かに残っている女としての羞恥なのか竹谷には分からない。

ただ、男として忍者にならなければならない自分への当てつけの様に三郎が何度も女ということを竹谷に確認してくるのが悔しい。
成長するにつれて男との違いなど竹谷が一番理解していた。
それでも男として生きなければならないのに、やっと半分を折り返して二年を切ったところで三郎に女だとばれてしまったのだ。
事情を話して黙っていてくれる事を約束した条件はこれだ。


「震えているぞ、竹谷」

「震えてなんていない。…するならさっさとしろ」

三郎の言う通り竹谷は微かに全身を震わせている。
認めるのも嫌で否定を口にしても、触れている個所から身体の震えは三郎に伝わっているだろう。


「竹谷、怖いのか?……何度もしてるのに?」

「っ!」

竹谷は見開いた目の前が真っ赤に染まった。
思い出すのは無理矢理にされた初めての時、屈服させられた時、女であることを見せつけられた時、弄ぶようにされた時、時折優しくする時。
思い出す光景にゆるゆると無意識に首を振ったのは、それらを否定するためか。

「ち、がう」

「何度も私に抱かれただろう」

「違う!!」

「何回否定しようとも、お前は、女だ」


「ちが、う…。…俺は、……男だ…」

呟いた竹谷の声はとても小さくなって、それでも三郎に届いた。
不機嫌そうに片眉を跳ねさせた三郎が、ゆっくりと竹谷へと迫る。
逃れるように首を振って横を向くと、胸の双丘の間に熱い息が掛かって、竹谷は目を瞑る。

泣かない。
男は簡単には泣かないというのが竹谷の中の男性像だから、これだけは違えない。

たとえ筈かしめられても、悔しくても。
男として生きる日に竹谷はそれを自分に誓った。


だからこの状況に胸が締め付けられていても、決して涙は流さない。
それが竹谷に残された女としての唯一の自尊心だった。





end

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