鉢竹

□不器用な彼ら
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本来なら、今日中に学園に帰れた筈だった。
日が出ている内には無理でも、夜のそれほど遅くならない時間には学園に着く予定だったのだが、思わぬ猫助けによって本日中に学園に帰ることは不可能となった。

子猫を親猫へと届けた時はとても満足感で満たされていた竹谷だが、その後に三郎を見遣って、自分のした事を反省することになった。
一秒でも早く三郎が雷蔵と会いたい事を分かっていながら、自分のおせっかいで今日中に学園に帰れなくなってしまったのだ。
三郎は勿論不機嫌で、そんな三郎に話しかけることは竹谷には出来なかった。




「おい。……おい、ハチ!!」

「えっ!?ああ、何だ!?」

「惚けっとしてんな。今日はどこか宿に泊まるぞ」

「…おう」

小さく頷いて竹谷は三郎の後に続いて行く。
俯きながら歩く竹谷に、先を歩いていた三郎は速度を落として竹谷と並ぶ。


「ハチ」

「ん?」

「お前が私に迷惑掛ける事なんて何時ももことだろう」

「その言い方むかつく。…否定できねぇけど」

漸く顔を上げた竹谷は困った様に笑って三郎の方を見遣る。
そんな竹谷を三郎がふんっと鼻で笑ってやると、申し訳なさそうに笑う顔からやや不機嫌な顔へと竹谷は変わる。


「三郎に迷惑かけないって雷蔵と約束したんだけどな…。悪い、やっぱり三郎に迷惑掛けたな」

自分の不甲斐なさを反省して三郎を見上げると、横に居た美人は何故か微笑んでいた。

「今更ハチの迷惑なんてどうって事はない。私の一部みたいなもんだ」

と告げられてしまって、竹谷は足を止めることとなった。
同じ速度で歩いていた三郎が不思議そうに振り向いたので、竹谷は湧き上がる笑いを堪えることなく表情に浮かべる。


「お、男前な台詞なのにっ!そんな美人でいわれると違和感あるっ!!」

「笑うな!お前は、『きゃー!!三郎格好いい!!』とか『素敵!惚れそう!!』とか褒められんのかっ」

「その美人で言われてもな〜」

「よし分かった!見てろハチ!!」

三郎が自分の顔に手を掛けようとするので、竹谷は慌ててそれを止める。

「別に顔変えなくてもいいだろ!?てか、変えても雷蔵じゃねぇか!!!」

「雷蔵程いい男はいない!」

「分かった。分かったから、落ち着け!回り見ろっ!!」

どこか変な意地を張って顔を変えようとする三郎に、竹谷は小声で注意する。
周りには何人かの通行人がいて、三郎と竹谷――正確には美人と男――をちらちらと窺っている。
知らないおじさんからは、道中で痴話喧嘩するなよと揄われる始末である。

そこでやっと三郎が町に近付いたらしい事に気付き、同時に自分の今の格好と状況を思い出して静かになったので竹谷は胸を撫で下ろす。
三郎の着物の裾を引っ張り歩く事を促すと、今度は三郎が竹谷の後を大人しく付いて来た。




「俺、三郎の事格好いいと思ってるよ?」

「はぃ?」

本来ならああ?と返されていたところだが、人通りの多くなったことで女らしい返事が返って来て、流石三郎、と言いたくなる返答に感心しながら隣に並んだ三郎に笑顔を向ける。


「何だかんだで面倒見良いし、優しいよな。三郎は!」

竹谷の言葉に嫌そうな顔をした三郎を、それが照れ隠しなのは竹谷にも分かった。
文句を言いつつも面倒見の良い三郎に竹谷も何だかんだで甘えている自分を自覚し、苦笑するのだった。
そんな三郎が唯一甘えられるのが雷蔵で、自分は面倒や迷惑を掛けるばかりで三郎に何も返せていないなと思うと竹谷は少し悲しくなった。






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