鉢竹

□不器用な彼ら
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不器用な彼ら
鉢竹





課題はほぼ成功した。
学園長達より先に学園に帰るまでは完全とは言い難いが、それ以外は何の滞りもなく進んだ。
三郎が竹谷に吊り合うような女装をしてくれたお陰で竹谷も特に緊張することなく自然体で居ることができ、課題の相手はくの一であることを信じてくれたし、持っていった品物も良かったことで奥方にも大変喜ばれた。

気に入られたお陰で、一日泊っていってはなどと言われたことを断る事の方が苦労した。
そんな事をしたら、三郎が女いでない事がばれてしまう可能性が高くなるので竹谷が困っていたら、どこかで見た事ある様な柔和な笑顔を浮かべた三郎がやんわりと断ってくれたので事なきを得たのだ。


早々と屋敷を出たおかげで時間は有り余っていた。
そう油断していたのが悪かったのだろう、竹谷が道すがらで見かけた子猫を見付けたことが事の発端となったのだ。


「お。子猫〜!見ろよ三郎。ふわふわだぞ!」

「そうだな」

三郎の声につまらなそうに唇を尖らせていた竹谷だが、子猫を視界に入れることで自然と笑顔が湧きあがる。
まだそんなに大きくない子猫は柔らかくふわふわとして頬ずりしたい可愛さだ。
そうして暫く手の内で子猫を愛でていると、おかしなことに気付く。

「なぁこの子猫、一匹なのかな?」

「さあな」

「他の猫の鳴き声も聞こえないし、歩いて来た道に親猫がいる様な感じもなかった」

「そうか。…ハチ」

「少しだけ!少しだけだから!」

じとりと美しい顔に険を滲ませて竹谷を見下ろしてくる三郎に目を合わせた竹谷は縋りつくように見上げて、子猫を持ち上げる。

「こんなに小さいんだ、一匹じゃ生きられねぇよ。子猫が一匹で歩ける距離も限られてくる、そんなに遠くに親猫が居るとは思わないから。探させてくれ!」

頼む!と子猫を三郎に捧げるように持ち上げた状態で頭を下げる。
無言の三郎に、恐る恐ると顔を上げた竹谷は考えるようにこちらを見ている三郎を見て、更に駄目押しと告げる。

「それに、ほらっ!早く出られたお陰で時間はまだあるし!!なっ?」

「…………わかった」

竹谷が三郎の返事を待つ竹谷が小首を傾げて待つ姿に、数秒、深い息を吐くと三郎は渋々と言った形で頷いた。
不安そうに眉を下げ、瞳を狭めることで黒眼が目立ち、その顔で三郎の返事を一身に待つ姿が子猫の相乗効果と相まって可愛かったから、と言うのは三郎のいい訳で。
嬉しそうに、よかったなー俺らがお前の母ちゃん探してやるかんな!と話しかける竹谷を照れ隠し序に軽く小突く。


「ほら、さっさと探して、学園に帰るぞ」

「おう!雷蔵も待ってるしな!!」

にかっと笑う竹谷に複雑な表情を一瞬だけ向けた三郎だが、子猫が竹谷の服をひっかいたことで其方に気を取られていた竹谷は見ることはできなかった。
立ち上がって、大切そうに子猫を懐に抱えた竹谷は、早速今まで学園の生物委員会で培った知識を総動員して親猫の居そうな範囲を考えその場所を探ることにした。





こうして親猫が見つかったのは、それから三刻後の事だった。







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