鉢竹

□不器用な人たち
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不器用な人たち
鉢→竹




不機嫌な人間と同じ空間を共にするのは居た堪れない思いがある。
それも長い道中のまだ半ば程の距離であり、これからずっとこの空間が続くのだと考えるとそれは苦痛以外の何物でもない。
知らない人ならば、それを無視すればいいのだが、何分不機嫌に顔を歪めている人物は竹谷にとって親友とも仲間とも言える人だった。


そして、不機嫌になった原因が自分なのだから下手に口を出す事ができないのだ。


小さく深呼吸をして、意を決して本日何度目かになる謝罪の言葉を舌に乗せた。

「あの、三郎?……ごめん、な?」

「……」


もう何度も聞いた、五月蠅い話しかけんなと言葉ではなく態度で返答され、竹谷は肩を落とした。
この遣り取りも本日何度目かになる。
先を行く三郎を窺っても此方を振り向く素振りすらなく、黒く艶やかな長髪と艶やかな着物を視界に収め竹谷はその背をとぼとぼと付いて行くしかない。
傍から見たその姿は、へそを曲げた女と甲斐性のない男の仲互いに見えることだろう。




竹谷の出された課題は学園長の友人に手紙と贈り物を届けるという簡単なものだったのだが、友人の妻への贈り物をくの一が選び届けるというくの一との共同の課題だった。
くの一が町で選んだ贈り物と学園長から預かった手紙を持った二人が門を出ようとした所で、ヘムヘムに止められたのだ。
学園長の突然の思いつきでくの一全員と学園長はこれから山に籠って精神を鍛える修行を行う、と。
その裏にある学園長が山にある秘湯でのんびりしたいという意図はさて置き、高速で共に行く筈だったくの一を連れて行かれた竹谷に残されたのは贈り物と手紙、そして課題だった。

男女が一人ずつ行く手筈になっているから、女を共に連れて行くこと。
女は忍たまであること。
友人は元忍者で、その人に女装がばれなかった場合二人には特別休暇を与える、ばれた場合二人は長期休暇から日数を減らさせること。
期限はくの一と学園長が帰ってくるまでであること。

との、追加課題をも残された。







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