鉢竹
□毒にも薬にもならない
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「ただいま〜」
誰も居ない自室に声を掛けて入るのは最早習慣になっている。
低学年の時にはいた同室者も今は居ない。
それでもこの言葉を言うと、安息できる場所に帰って来たと思えて安心する。
あの後、無事に虫を捜索し終えた生物委員会は解散し、俺はまだジュンコを捜索している孫兵と合流した。
探している途中で三年の富松が、静かに眠るジュンコを首に巻いて現れてくれたお陰で捜索はそれなりに早く終わってくれた。
まあ、ジュンコが安心して身を預けている富松に対して孫兵が少し不機嫌そうだったがなんとかなるだろう。
何だかんだで二人が一緒にいるのをよく見るしな。
予想より早く終わっても、夕食ぎりぎりだったのでそのまま食堂へ行って夕飯を食べて、今やっと部屋に帰って来られた。
直ぐに風呂の時間だが、一度部屋に入って腰を下ろしてしまうと行動を起こすのが面倒臭い。
布団を敷いていない床に寝転がると、途端に睡魔が襲ってきた。
天井を見たままぼんやりと、もうこのまま寝ちゃってもいいかなーって思ってると足音が聞こえてきた。
足音なんで其処ら中から聞こえるから特に何があるという訳ではないのだが、その足音は忍ばせたものだ。
下級生が訓練や練習する為にやっている音ではない。
俺が分かるように、態と忍ばせた足音は部屋の前へと来ると止まった。
「竹谷八左ヱ門居るかー!!」
思わず身構えていたら、戸口から入って来た顔に体の力を抜いて再び床に寝ころんだ。
半分分かってたが、忍ばせた音が俺に聞こえる程度だったのもこいつの場合は態とだろう。
無駄に緊張させやがって!
「なんだ?溜め息を吐いて。私が来たのがそんなに嬉しいのか」
俺の吐いた溜め息をそう解釈できるお前は凄ぇやとは口にせず、俺の横にしゃがんで顔を覗き込んでいる三郎に目を遣る。
目が合って見つめ合うこと数秒。
お互いに何も言わずにいる空間に耐えられなくて、ついに俺は三郎に問い掛けた。
「お前、何しに来たんだ?」
「提出の課題を取りに来たんだよ。ハチだけだぞ、出してないの」
そう言われて思い出す。
がばりと起き上がって文机の上を漁ると、明日の朝提出課題が白紙の状態で出てきた。
「やっぱり忘れてたか…」
後ろを振り向くと呆れ顔の三郎が課題を覗き込んでる。
「うぁぁ!!完っ璧忘れてた!間に合わねぇよ〜!!!」
「馬鹿ハチ!何の為に私が来たと思ってるんだ」
「手伝ってくれるのか!?」
半泣き状態で三郎を見ると、顔を逸らせてお前の為じゃないと言われた。
「全員分の課題を期限までに集められたなったとなると、私の評価に関わるからな!」
「……学級委員長も大変だな」
「そんな私の為に課題を埋めてくれるよな?」
にっこりと微笑まれた筈なんだが、目が笑ってませんよ三郎さん。
雷蔵に似てきたなぁとしみじみ思ってると無言で筆が渡される。
「私は雷蔵みたいに優しくないからな」
「……うっす」
言葉通り優しくない、しかし答えを教えるのではなく俺に解かせる方法で俺は何とか課題をやり遂げた。
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