鉢竹

□毒にも薬にもならない
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毒にも薬にもならない
鉢竹




本日何度目になるか、見かけては気配を感じては視界に収めて目で追い掛けた。
俺の目に映る同じ顔をした二人。
三郎と雷蔵は何事かを話しながら俺の視界から消えて行く。
この距離では向こうは俺に気付かないだろうし、俺も二人に声を掛ける事は無い。


動きを止めた俺を不思議そうに見上げた一平を撫でて、また脱走した虫探しを再開した。
てか逃がした張本人の孫兵は何処行ったんだ。
先程から見当たらねぇんだけど。

「「竹谷先輩?」」

地面ではなく周りを見渡していた俺に、一平の横にいた虎若と三治郎に呼びかけられる。
二人の横では孫次郎が血色の悪い顔で俺を見上げている。

「孫兵何処行ったんだ?見当たらないけど…」

俺の言葉に、虎若と三治郎は顔を合わせてあー…と苦笑を浮かべる。
それに首を傾げると虎若が一本指を立てて実は、と切り出した。

「伊賀崎先輩、虫を探している途中で首に巻いていたジュンコが逃げ出してそちらを探しに行っちゃいましたー!」

「行っちゃいましたー、って!!」

俺の困っているであろう表情を見た三治郎は、両手を持ち上げて此方も困った表情で肩を竦める。

「僕達も止めようとしたんですけど、すごい勢いでジュンコの名前を呼びながら走って行っちゃいました」

「虫達は任せた!って言ってましたー!」

途中で虎若が加わって経緯を説明され孫次郎と一平が頷いているが、それに俺が頭を抱えてしまったのは言うまでも無い。
何故、脱走癖のあるジュンコを連れだしたんだ孫兵は!
二次災害が起こるって目に見えて分かるだろうに。

「あー。分かった、一人で行ったんだから何とかなるんだろう。俺達は脱走した虫を探すぞ!」

あと少しだからな!と続けれは元気な返事が四つ返って来た。
はぁ、虫を探し終わったら孫兵の方を手伝うか。
何時もより遅くなりそうだなと思いながら俺は暮れ出した空を仰ぎ見た。








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