鉢竹

□あっさり塩味
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あっさり塩味
鉢竹




三郎と雷蔵は仲が良い。
何をするにも一緒にいて、またそれが周囲の人間にとっては当然の事だった。
三郎が雷蔵のする事成す事に着いていくという一方的な事が多いのも、周知ではあったが。

本日も仲良く自室で一つの冊子を見ながら話しをしているのを勘右衛門は見遣った。
そして二人から少し離れた場所で壁を背にして本を読んでいる八左ヱ門に目を移すと、じっと観察する。
隅から隅まで八左ヱ門を見るが普段道りだ。
何も変わらないその姿に、勘右衛門は変なのと心の中で首を捻る。


「ん?なんだ?」

じっくりと観察していた為か、視線に気づいた八左ヱ門が本から勘右衛門へと視線を上げた。
それに首を傾げた勘右衛門に同じく首を傾げた八左ヱ門は、勘右衛門の横にいる人物に目を向け首を傾げたまま問うた。

「なあ、兵助は何やってんだ?」

先程から一心不乱に三郎の文机で帳面へと何かを書き綴っている兵助に声を掛けるが、聞いていなかったのか答える気がないのか返事は無い。
勘右衛門はそれにああ、と事も無げに答える。

「何かね、より美味しい豆腐を作る調理法を書き出しているらしいよ」

「へ〜」

まあ兵助が一生懸命勉強するとは考えられなかった八左ヱ門だが、頗るどうでもいい話題に自分で問うた事だがいい加減な返事を返すのだった。
八左ヱ門が再び本に視線を落すと突然、絶え間なく動いていた兵助の手が止まり筆を荒々しく置くと、ごんっと音を立てて頭を机に打ち付けて動かなくなる。

「これでは駄目だ。滑らかな感触を出しかつ、白く美しい形を保つ為には配分を変えなければ。苦汁をもう少し抑えて…」

顔を上げずに机に向かってぶつぶつと呟き出した兵助に二人は再び視線を合わせる。
兵助の突然の奇行にも関わらず、三郎と雷蔵は変わらず冊子に目を向けていた。
何時もの事で慣れているからなのか話が熱中しているのか、此方には目もくれない。


「…兵助は何と交信してんだ?」

「さあ…。豆腐の神様とかじゃないの」

本当にどうでもいいと勘右衛門が答えると、もう読んでいた本には集中できないと八左ヱ門は開いていた頁に栞を挟んで閉じた。
一度三郎達の方を見遣ったが再び此方へと視線を向けた八左ヱ門に、もうこの際だから気になる事は聞いてしまおうと勘右衛門は決意する。
どうせ三郎も雷蔵も聞いてないし、兵助はどこぞの世界へと旅立っているので問題ないだろう。


「八左ヱ門、聞きたい事あるんだけど」

「んー?何勘ちゃん」

ごくりと喉を鳴らし真剣に八左ヱ門を見る勘右衛門に八左ヱ門も自ずと正座をする形になった。

「な、何?」

「……、八左ヱ門はさ、あれを見て何も思わないの?」

あれ、と言って指を示した方を見遣るとその先には三郎と雷蔵が居た。
雷蔵の言葉に嬉しそうに頷く三郎がいるという先程と何ら変わる事のない二人がそこにいて、問われた意味が分からない八左ヱ門は疑問の色を浮かべて勘右衛門に向き直る。

「………?」

「だから…」

そうって声を潜めた勘右衛門に八左ヱ門は声を聞き取ろうと其方へと身を屈める。
一拍置いて勘右衛門は口を開いた。

「二人を見て嫉妬しないの?」











っぶ!!はははははっははははははははははは!!


と八左ヱ門は笑いだした。
腹を抱えて床を転がりながら笑う八左ヱ門に、まさか笑われるとは思わなかった勘右衛門は驚いてその行動を呆然と見る。

流石に騒がしかったのか、雷蔵と三郎も此方を見る気配が分かり勘右衛門が冷静を取り戻して八左ヱ門を落ち着かせようとすると、床を移動していた八左ヱ門が起き上がり笑いで涙を浮かべていた。
そして、涙を拭って呆然と自分を見ている勘右衛門に視線を合わせると歯を見せて笑った。




「するよ勿論。好きなんだから!!」






八左ヱ門の言葉に、勘右衛門が苦笑し、三郎は眉を潜ませ、雷蔵は首を傾げる。
序に兵助は机に呟き続けていた。






end

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