鉢竹
□見えるモノ
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伊作が部屋を出てから少しして、授業開始の鐘が学園に鳴り響く。
それに、はっと頭を上げた竹谷は自分の考えを否定する様に軽く頭を振った。
こんな滅入った考えばかりしていては駄目だと自分を立て直す。
気分転換にと、部屋から出ると直ぐ前の廊下の縁へと腰を掛けると中庭に足を出す。
本当ならもう少し遠くまで足を運びたいのだが、きつく言われているのだ。
部屋の前の廊下より広い範囲に一人で出歩いてはいけないと。
体が動けるようになってから、散歩といって三郎を探しに学園中を歩き回ったり、自室に帰ることが出来なくて迷子になった事がある。
その時は雷蔵が探しに来てくれて助かったのだが。
感覚には鋭い方であると自信があったが、その結果は少し衝撃を受けた。
忍務で学園まで辿り着いたことが奇跡の様だ。
帰省本能というやつか。
そう一人で納得している竹谷はふむふむと頷く。
帰省本能いえば、生物委員会はどうなっているだろうか。
委員会も、孫兵に状況を聞いて指示を出すくらいで殆ど参加していない。
気を付けているらしく、毒虫の脱走も竹谷が怪我をしてから三回しか起きていない。
その時は竹谷の代わりに五年生達が捜索を協力をしてくれた、と孫兵が言っていた。
「皆に迷惑かけてんなー俺」
思い返したのだけでも両手では足りないくらいの人に世話になっていた。
はははと乾いた笑いを洩らした竹谷は、自分が情けなくなる。
最後まで気を抜くな。
これを怠ったばかりに、沢山の人に迷惑を掛けている自分。
「こんなんじゃ…」
三郎だって…と続く声は萎んでいった。
考えないようにしようと試みても、竹谷の頭に浮かんでくるのは三郎ばかりなのだ。
こうして体を休めている分、考える時間は増える一方だ。
そうして会えなくなって更に募る想いは、竹谷を苦しめていた。
また涙が零れそうになって、竹谷は慌てて空を仰ぐ。
瞑っている瞼の奥がじんわりと熱くなる。
それに被さるように外から感じた熱は太陽のものだった。
目が見えなくなって、暗闇しかないと感じていた世界は思いのほか色に溢れていた。
この熱は白、太陽の色。
もっと暑い日は赤く瞼の奥に色づくのだ。
その色に、太陽を知っている竹谷は安心するのだ。
それでも、すべての生き物を潤し輝かせる太陽は竹谷の全てを照らしてはくれなかった。
痛い程強い白の世界で見えるのも三郎の顔だった。
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