鉢竹

□見えないモノ
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見えないモノ
鉢竹 ※流血表現注意







最後まで油断をするな。

それは一年生の頃から言われ続けていた事で、十分に理解している筈だった。


竹谷は傷付いた目を抑えて樹の幹に寄りかかる。
ずるずると座りこむが、周りに気を配るのは忘れない。
追っての気配がない事に安堵し、目を抑えていた手を外し見ると、手にはべっとりと己の血が着いている。



簡単な忍務だった。
ある城から情報を得て来る、という五年生には出来て当然の忍務。
課題の一環ではあるが本当の忍務のつもりで当たれと先生にも言われた。
その通りに真剣に取り組んだ竹谷は、最後の最後、城を抜け出る時に気を抜いてしまったのだ。

その城の忍者隊はドクタケほど馬鹿で甘い者達ではなかった。
気付かれ、追われ、何とか一人にまで撒いたはいいがその一人からは逃れられなかった。
苦無を抜き向き合い、撃ち付け合う。
体術が得意な方ではある竹谷だが、流石にプロ相手には分が悪く、一瞬の隙を突かれて振り下ろされた苦無に瞳を一閃された。
その竹谷に気を抜いたのは相手の方で、竹谷は己の苦無を放った。
悲鳴と共に相手が崩れ落ちる気配を感じ、竹谷はその場から離れる為に木へと跳んだ。
致命傷は避けた筈だから死にはしないだろう。
目を抑え、竹谷は次の枝へと飛び移ったのだった。




手に着いた赤い血を見て、自分の傷の状態を測る。
深く傷付いたのか血は止まる事を知らないかの様に流れ出る。
それを外した頭巾で拭い、再び辺りへと気を巡らす。
敵の気配は感ぜられず、恐らく追跡を諦めたのだろう。
竹谷は傷付いた目を開くが、血に濡れた為か傷付いた為か辺りがよく見えなかった。

背を預けていた幹から立ち上がると、竹谷は学園へと向かい歩き始めた。

学園に近付く度に竹谷の視界は狭まってくる。
最早見えるものは無く、真っ黒な世界が竹谷を覆っても足を止める事はない。

気配で、臭いで、記憶で、覚えている。
その場所へ帰るのだ、そう強くなる思いとは裏腹に傷付いた体は疲労で重くなっていった。


賑やかな気配にそこが学園だと分かる。
竹谷は安堵して息を吐くと、自分に向かって来るひとつの気配を感じた。
心配して待っていたのだろうか、そう思うと嬉しいと思う反面、この惨事を見たら怒られるだろうなとも思う。
気配が竹谷の本の直ぐ傍まで来たのを感じ取ると、体の緊張が一気に抜けて地面へと崩れ落ちた。


支えられた手に酷く安堵し、竹谷は意識を手放した。







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