鉢竹

□躊躇い無く触れて
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大体ハチが居そうな所は分かるので、そこを一つ一つ当たって行くとふらふらと歩いて来るハチが見えた。


「おー、三郎」

向こうも私に気付いたみたいで、軽く左手を上げるてそう言うと此方へとふらふら歩いて来る。
その危なっかしい足取りに内心ひやひやしながらも、私の口から出た言葉は心配のそれではなかった。

「昼間っから何をふらふらしている、情けないぞハチ!」

「うるせぇ。こっちは朝から毒虫が脱走して、今やっと片付いたとこなんだよ!」

私の言葉にげっそりとした顔で答えたハチは、欠伸をすると眠そうに目を擦った。
大方、誰よりも早く脱走に気付いたハチは誰よりも早くから探していたに違いない。
何時もの事だがよくやる、と私が感心しているとハチは私を通り過ぎてふらふらと歩きだす。

「何処に行くんだ?」

「…もう眠い…部屋で寝る」

こちらを見向きもせずに長屋へと足を進めるハチに私は着いて行く。
ハチに並んで、ふらふらとしている体を支えるため腕を取ると眠さで擦れた声でありがとーと言うのが聞こえた。

「まったくだ」

そう言ってやると、はははっとハチが笑う。

「三郎は素直じゃねぇなー」

照れ隠しの言葉など既にばればれで、嬉しそうに笑うハチが一寸憎らしい。

「お前が素直すぎるだけだ」

「だって、素直が一番だろー」

減らず口、とはよく言ったもので、二人でそんな他愛もない掛け合いをやっていると、不意にずるり、とハチが私に体重を掛けてきた。
それに柄にもなく慌てていると、目の前はもうハチの部屋で、我慢できなくなって寝る体制に入っただけのようだ。

「もう少しだろ!立て、立つんだハチー!!」

「もうむり、さぶろーつれてって」

眠さで呂律が回らずうつらうつらし出したハチの頬をぺちぺちと叩くが、殆ど反応がない。
全く仕方のない奴だ。
私は部屋の戸を開けるとハチの両脇を引き摺って中へと押し込んだ。
途端にくたりと全身の力を抜かしたハチは床へと寝転がった。

「面倒くさいから布団は敷かんぞ!」

「ん…」

短く返事をして静かになったハチに私は盛大に溜息を吐くと、押し入れから薄手の掛け布団を取りだして掛けてやる。
何この優しさ、ハチに対してなんて勿体ない。
自分の優しさにしみじみと感動していると、寝ていた筈のハチが半分目を開けて私を見ていた。
それになんだ?と返すと、寝たいのを必死で堪えているのであろう、か細い声で話し掛けてくる。

「んー…、三郎、…俺に何か用あった?」

己が疲労している中で相手の事を気遣うハチのこういう性質はとても好ましいが、今は必要ないだろうに。

「問題無い。寝ている間にでも何とかなる」

そう私が言ってやると安心したように両目を閉じた。
暫くして静かな息遣いが聞こえてくると、私も早速目的へと手を伸ばした。








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