鉢竹

□躊躇い無く触れて
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躊躇い無く触れて
鉢竹

※『変装名人はだれ?の段』のネタバレ有







私の名前は鉢屋三郎。
何時もは同組同部屋の不破雷蔵の顔を借りている。
雷蔵に限らず、多くの人、物に変装できると自負している私は、周りから『変装名人』と呼ばれている。

そんな私に、ある依頼がきた。


『竹谷八左ヱ門に変装せよ』と。



細かくは、久々知兵助にも変装せよ、とか、尚この依頼はどこぞの国の情報機関に送られ大衆に流されるとか書いてあった様だが、私は最初の一文字に目を固定させられていた。






竹谷八左ヱ門。
同じ五年ろ組で、私にとって取分け仲の良い部類に入る人間だ。
ろ組では雷蔵、ハチ、私で連む事が多く、私にとって、お互いの事をよく理解している気の置けない数少ない友人の一人である。


そんなハチに変装する事は何ら問題はないのだが、そういえば、と思案する。
久しくハチに変装していない気がする。
前に変装したのは何時だったか、恐らく五年生になってからは一度もその姿になっていない。

そう思い出して私は首を傾げた。
雷蔵は勿論の事、兵助や勘右衛門、しんべヱにすら常日頃よく変装しているのにハチに変装する事がめっきり少なくなった。
何故だろうか。
無個性だから変装しにくい、と言う訳でもないし。
寧ろ障害があればある程燃えるのが私である。

うーん、と数秒考えたが、ここは特に雷蔵に真似なくてもいいので思考を切り替える。
取りあえず此れはいい機会なのではないのだろうか。


暫く振りに竹谷八左ヱ門の変装一式を取り出してみると、毎日見ているそれとは大分違く、新調せねばならない状態だ。
只でさえ日に日に成長していく私達だ、これだけの間手つかずではそうなってしまうのも当たり前の事だった。

しかし、四年の頃のハチはこの様な顔をしていたのだなと変装用具をまじまじと見つめてしまう。
日々過ごして行く中では感じ取れない成長が、こうして見るとよく分かる。
そしてその頃の自分の変装の力量も。


何だか感慨深くなってハチの変装用具を弄っていると、顔だけでなく所々直さなければならない小道具が目に入る。
これは本格的に一から作り直した方が良さそうだ。

これを機に、偶にはハチに為ってやろうではないか。
出番が少ないと嘆いていたあいつにはさぞかし嬉しがるだろう、私に感謝しろよハチ。

そう思って私は腰を上げると、竹谷八左ヱ門を作るべく、本物を探すために足を踏み出した。







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