鉢竹

□ただの遊びだよ
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ただの遊びだよ
鉢竹+五年生 19期19話ネタバレ注意






三治郎の宿題の手伝いを終えた竹谷は、長屋の自室へと帰る。
今日は大変だった。
孫兵が迷子になったと思って探しに出たら、ただ寝ていただけの勘違いで、乱太郎きり丸しんべヱに捜索を手伝って貰ったら、学園中を巻き込む大惨事になるところだった。

そもそも、冷静に考えたら、孫兵が迷子になるなんてありえないか。
絶えず一緒に居る筈のジュンコがひとりで帰って来たから、何かあったのかと早とちりしたんだよな。
孫兵は、虫やら動物が絡まなければ、比較的しっかり者の三年生だし。
例の三のろの迷子たちじゃあるまいし。

と、自分の勘違いの所為で学園中に恥を振り撒く事にならなくて本当に良かったと胸を撫で下ろして自室を開けると、五年の仲間が勢ぞろいしていた。


「「おかえりーハチ!」」

声を合わせてにっこり笑っているのは雷蔵と兵助だ。
二人で一緒に見ているらしい本は、竹谷が図書室から借りたもので、開いた本に菓子の食べかすをぼろぼろと零す雷蔵。
図書委員としてそれはいいのか!?とか、それに浸みがついたら図書委員長に恐怖の笑顔を向けられるのは俺なんだけど!とか言いたい事があったが竹谷はそれを呑み込んで、何とか小さな声でただいまと絞り出す。

「ねえ、八左エ門。これ違ってるよ?」

小さく深呼吸をして自分を落ち着けている竹谷に、そう言ってある物を差し出したのは勘右衛門だった。
のろのろと視線を移した竹谷は、差し出された物を見て我が目を疑った。
それは数日後に提出の宿題。
提出日まで時間があるので、ゆっくりと解いていて、八割がた終えている竹谷の宿題だった。

しかしそこには、竹谷の解答以外に赤文字で○と×が書いてあり、×の横にはご丁寧に答えへの手引きが書いてもあった。
しかもかなり見知った筆跡で。
これ誰が?何て聞かなくても分かり切っていて、宿題を差し出している本人が褒めてくれとでも言うように笑顔でいるのが何よりの答えだ。
それを竹谷は又も小さな声でうん、ありがとう勘右衛門。後で直して置くわと受け取った。
己の手の中の宿題を見つめて、先生に怒られるのは確実だと理解できた竹谷だった。


「ハチ肩揉んで」

疲れてんだよね私と竹谷に背を向けてそう言ってのけた三郎に、竹谷は持っていた宿題を投げつけた。

「アホか!!俺の方が今日は疲れてるわ!俺が揉んでほしいよ!!つーか、何で皆俺の部屋に居んの!?」

それに全員が竹谷の方に顔を向ける。
三郎がにやりと笑ったのを変わきりに、それぞれが口を開く。

「私の勝ちー!!」

「僕の方がいいと思ったのに」

「何で俺じゃないんだ!?」

「いや、兵助は何もしてないでしょ」

「だからだよ!!」

竹谷の前で各々がガッツポーズなり落ち込んでいたり、首を捻ったりしていて、意味が分からずに動けないでいる竹谷に勘右衛門が説明してくれた。

「俺達、賭けをしてたんだ」

「はぁ!?賭けぇぇ?」

「そう、竹左ヱ門が誰に一番最初に痺れを切らすか?って」

得意げに胸を逸らす勘右衛門に、まだ納得がいかないらしい兵助が食い下がる。

「三郎なんて何時も通りだっただけじゃん」

「そう言っても、八左ヱ門が選んだのは三郎だったからしょうがないよ。一日八左ヱ門を好きに出来る権利は三郎のものだな」

「ちょっと待て!!今、聞き捨てならない言葉聞いたんだけど!?何?俺を好きにしていい権利って!?」

「その通りの意味だけど?」

と言って竹谷の肩に腕を掛けて来たのは賭けの勝者三郎で、い組の二人も何当り前なこと言ってんのばりに頷いている。
俺の了解は!?とか俺で賭けをすんな!とか言ってやりたいけど、この級友達が竹谷の言い分をすんなり聞いてくれたためしがない。

「僕が勝ったら、今度の委員会の図書整理手伝って貰おうと思ったのにな」

ちょっと残念と、その図書を汚しまくっていた雷蔵が呟くと、三郎が私が何時でも手伝ってあげるよ!!と抱きつこうとするのを無言で避ける雷蔵。
俺は豆腐屋めぐりを一緒にしたかった!と兵助が竹谷に抱きつくのを、やんわりと離しつつ勘右衛門は俺は宿題手伝って貰ったり、雑用手伝って貰いたかったなと言った。

「てかそんなんだったら、俺普通に手伝うけど?」

そう竹谷が笑うと、知ってるーと声を合わせて三人が笑った。
三郎が、じゃあ私はハチの体を一日好きにすると戯れ言をほざいているのをそこにいた全員が聞き流す。
何だよと少し拗ねる三郎をよそに、そう言えば、と竹谷が皆を見渡す。

「なんで俺の部屋に集まってんだ?」

するとそこに居た雷蔵、兵助、勘右衛門、三郎の顔ににやりと笑みが浮かぶ。
竹谷がそれに嫌な予感がして身構えると、その予感を裏切らない答えが返って来た。

「今日生物委員会で面白い事があったんだってね?三年生の伊賀崎孫兵が迷子になったとか?」

そう言った雷蔵の目は楽しそうな光が見て取れた。

「うぇ!?何で知ってんだよ!!?」

冷汗を浮かべて叫んだ竹谷に、雷蔵はきり丸が竹谷先輩に弄ばれて全力疾走する羽目になったって言ってたよ、と丁寧に教えてくれる。
結局、阻止した意味なくないか?と昼間の自分の行動が少し虚しくなってくる竹谷に、仲間達はそれは楽しそうにその事を根掘り葉掘りと聞いてくるのだった。






end

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