鉢竹
□絆されているのは俺
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絆されているのは俺
鉢竹+五年生
すぱーんと小気味いい音を立てて部屋に入って来た人物に、竹谷は布団の中から寝惚け眼を向けた。
両腕を胸の前で組み仁王立ちしているのは、同じろ組の不破雷蔵の変装をしている鉢屋三郎だった。
「ふぁ〜…。何だぁ?三郎こんな朝早くに」
ぽりぽりと頭を書きながら、未だに部屋の戸を開けっ放しにしたままに居る三郎を見た。
暫く待っていたが、何も反応がないので竹谷はそのまま布団へと戻った。
布団の中からもそもそと動く竹谷に、三郎は近付いて掛け布団を捲り上げる。
「ハチ。行くぞ、着換えろ」
「何だよ〜。今日は授業もないのに…ゆっくりさせろよ〜」
それでも齧り付く様に布団の上で体を縮込ませている竹谷の寝間着を、三郎は徐に解きだした。
それに竹谷も流石に慌て出す。
「な、何すんだよ!?つーかどこ連れていくつもりだ!?」
「まあまあ、私が着換えさせてあげるから」
三郎の手を必死に押えて抵抗するが、中腰の竹谷が立ったままの三郎に勝てる訳もなくあっさりと押さえ付けられた。
「は〜な〜せぇぇぇ」
「大人しくしろ。直ぐ終わるから」
顔に悪戯を楽しんでいる表情を浮かべながら少しずつ竹谷の寝間着を脱がしていく。
朝からいきなりこんな状態に陥って、竹谷はなんだか悲しくなって涙目になる。
「この、変た」
「ハチに何してんだ、この変態!!」
竹谷の声に被るように言葉が聞こえたと思うと、ばしっと三郎の頭が叩かれる。
その救世主に顔を向けようとするが、竹谷の位置からでは三郎の体が邪魔で見えなかった。
三郎は竹谷の寝間着を正すと、頭を押えて後ろを振り返った。
そこには、拳を振り上げたままの久々知兵助が三郎を見下ろしていた。
「兵助、私にはこの扱いか?」
「ハチを泣かせるような奴には、これでも足りないと思うが?」
三郎と兵助がばちばちと火花を散らして睨み合っているのを通りぬけ、兵助と共にやって来た不破雷蔵と尾浜勘右衛門が竹谷の元へ駆け寄る。
「大丈夫だった?ハチ」
「三郎は兵助任せて、今の内に着換えちゃいなよ」
「雷蔵ぉ勘ちゃん!!」
三郎を引き摺って部屋から出して、他の三人も部屋の外で待機と言う名の三郎への説教を行っていた。
三郎が何やら言い訳をしているが、流石に三人からの攻めは堪えるらしく、押され気味だ。
竹谷はそのやり取りに耳を傾けながら急いで身支度をする。
ぼさぼさのかみを何とかまとめて縛り付けると、戸を開けた。
「お待たせっ!…何してんだ、三郎?」
開けた戸の前には、竹谷に向けて土下座している三郎がいた。
後ろには何やら黒い笑みを浮かべた雷蔵が三郎を見ていた。
「ハチ、すまなかった」
「三郎が謝るなんて…。すげーな雷蔵」
なんのこと?と微笑むが、その笑顔に背筋が冷える感じがするのは何故なのか。
とりあえず竹谷は土下座したままの三郎を立たせた。
「別に、三郎が来ると何時もこんな感じなんで慣れたから、気にすんな!」
珍しく落ち込んでしまっている三郎に向けて言った言葉だが、反応したのは後ろにいた三人だった。
「お前何時もこんなことしてんのか!?」
「最低だな」
「……」
一人は無言で首を振っている。
しかし竹谷本人に許しをもらった三郎はそんな反応に対して、竹谷に抱きついてくる。
「これが私の愛情表現だからね」
「っ!?何恥ずかしい事言ってんだ三郎!!」
顔を真っ赤にして三郎の束縛から解かれようとするが、更に強く抱きしめられてしまう。
暫くそれにもがいていたが、解けないと分かると竹谷は大人しくなって、小さく三郎の服を掴み、肩に顔を埋めた。
その耳は真っ赤に染まっていた。
その反応に嬉しそうに三郎は竹谷を見つめて微笑んだ。
「バカップル」
「ハチはなんであんなのがいいんだ」
「チッ 本当に、三郎だけずるいよね。痛い目見ればいいのに……」
「「雷蔵さん!?!?!」」
end
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