歌パロ

□Do-Dai
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Do-Dai
鉢にょ竹+にょ五年



「お前が竹谷?」

「は?」

声に自分の姓を呼ばれて振り向けば、見覚えのある顔。
でも今日その親友は体調が振るわないので休むと、ついさっきメールを受けたばかりだ。
だから今日は珍しく一人でバスに乗って来た訳なのだが。

その親友がなんでここにいるんだと首を傾げ、はたと竹谷は気付いた。
親友より背の高い竹谷は何時もは親友を見下ろす形になっているのに、目の前の相手に対して竹谷は見上げる体制である。
そろそろと視線を下へと移動すれば成程、親友とは別人のようだった。

ズボンを穿いた目の前の人物は男で、親友は竹谷と同じ女、これは別人である。
そこで竹谷は、親しくなりたての頃に親友が兄がいると言っていたのを思い出す。
兄って言っていたものだからてっきり年上かと思っていたがどうやら双子の兄らしいと、親友と全く同じ顔をした男を見て驚き固まっていた竹谷は表情を緩めた。

「…雷蔵からは聞いてなかったのか?」

「あ〜…兄がいるとは聞いてた…」

納得がいったように笑った竹谷に男が眉根を寄せて聞いてきたので竹谷は素直にそれに答える。
すると男はやや納得がいかないような顔をしたが、直ぐに真剣な表情を竹谷へと向けてくる。
女子校育ちで余り男子と免疫の少ない竹谷はその視線に微かに後ずさりを見せたが唾を飲み込んで後退する体を何とか耐える。
竹谷の動きに少しだけ面白そうに笑った男は、すっと竹谷へと近付いて顔を寄せた。

後ろへ下がりたい気持ちを押し隠して、下がったら負けな気がして、竹谷は男の琥珀色の瞳を強気に見返す。
綺麗な色の瞳と整った顔、男との近い距離に竹谷の心臓が煩く鳴る。
離れて欲しい様な、でも離れて欲しくない様な。
もっと琥珀色を見ていたい、もっと知りたいと、今日初めて会った目の前の男に竹谷はそう思った。
そんな想いは初めてでどうすればいいのか分からなくて動けずにいると、男の唇が動いた。


「私は鉢屋三郎」

「あ、…竹谷ハチ。だ…」

はちやさぶろう、と胸中で繰り返した後、竹谷は慌てて自分の名前を言う。
初めて会った人に軽々しく名乗っちゃいけませんっ!なんて親友や幼馴染に言われていたのはこの時竹谷はすっかり忘れていた。
差し出された手を握り返して、本当に雷蔵そっくりだなと三郎を眺めていると握手をしていた手を力強く引かれた。

「う、わぁ!?」

どん、と相手の胸板に頬がぶつかって慌てて体勢を立て直すが、三郎の腕が竹谷の背中の後ろへと回されがっちりと繋がれてしまいその輪から抜け出せない。
初めて感じる同年代の男子との接触に顔を真っ赤にして三郎を見上げれば、優しく笑う琥珀色が竹谷の瞳に映った。
その琥珀が揺れたのに見入っていると。


「ハチが好きだ。私と付き合ってほしい」


「………………ぇ?」

何とか絞り出した声は今の状況に着いていけないのが丸分かりで、ぱちぱちと相手の顔を見つめて、逸らされない琥珀色に本気を感じて漸く竹谷は顔を真っ赤に染め上げた。
ぼんっと音が鳴ってもおかしくない程一瞬で顔を赤くした竹谷に三郎はその頬を撫でる。
くすぐったさと恥ずかしさに更に顔を赤くし、そこで自分達の距離がとても近い事に思い至った。

「ちょ、あの、離しっ」

「…ああ」

三郎の制服で包まれた胸の上へと手を置いて精一杯そこから顔を逸らす。
そんな竹谷の思いに答える様に三郎は拘束していた自身の腕を解いて竹谷を解放した。
離してもらえても動けずにいる竹谷に、三郎は竹谷の手に何かを握らせてそのまま背を向けてしまう。
歩きだす前に竹谷を見た三郎に赤い顔のまま見返せば、苦笑する様な笑みが返ってくる。


「返事、後で聞かせて」

それだけ言って立ち去ってしまった三郎に何も言えずにいた竹谷は、ただ離れて行くその背中を見送った。
はっと我に帰った時には三郎の背中はもう見えなくなっていて、そう言えばと、握らされたものを見る。
四角に畳まれた紙を開けば、名前と携帯の番号、メールアドレスが書かれていて先程言われた言葉がリフレインする。

好きだ、なんて異性に初めて言われた。
思い出して顔を赤くする竹谷をじろじろと登校する学生が見て行くが自身の考えごとに夢中の竹谷は気付かない。
竹谷の通う高校の最寄りのバス停から数百メートル、そんな場所で繰り広げられた告白劇は瞬く間に全学年に広まったのだが、まだそれは竹谷の知らない事。
ただ竹谷は。

「うぅ……どーしよ!」

と、突然の告白に頭を悩ませていた。






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