歌パロ

□君の知らない物語
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君の知らない物語
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※卒業後の話も出てきます




何時も道りのある日の事、三郎が突然立ち上がり言った。


「今夜星を見に行こう」




驚いたのは俺だけじゃなく、ごろごろ床に寝転がっていた勘右衛門も本を読んでいた兵助もだ。
三郎の横にいた雷蔵でさえ三郎を見上げてぽかんと口を開けている。

三郎の言葉の意味が理解できなくて皆で首を傾げた。
天文の事は詳しくはないが、近々流星群が来るとも新星の兆候もなかったと思う。
それに天文の宿題が出たとも俺には心当たりがない。


「そろそろ七夕だろう。折角だから皆で見に行こう」

不思議がる俺達に、ふっと笑って言った三郎。
それに皆がああそうかと思い出す。
七夕なんて暦上知っていても特に何かをする訳でもないのが常の俺達だ。


「偶には良いこと言うんだね」

そう揄った勘右衛門に、皆して口ぐちに三郎なのにとか三郎のくせにとか言って笑った。
俺達の中で反対の言葉は出ない。
本人は少し不服そうにしていたが、雷蔵の笑顔を見てその顔も嬉しそうに笑って言う。

「じゃあ今日の夜、裏門集合な。外出届は私と勘右衛門で出しておくから」

「え!?俺もかよ!」

「い組の学級委員長だろお前」

「ちえ〜。俺も用意に時間を掛けたかった〜」

文句を言いつつも勘右衛門は立ち上がって外出届に兵助と自分の名前を書き始める。
書き込んだ紙を持って、三郎と勘右衛門は小松田さんを探しに行った。
今はもう放課後だから、これから小松田さんを探すのはなかなか大変だ。
何だかんだで仕事の多い人だからな。



「八左ヱ門何をしている!早く用意するのだ!!」

「は?」

三郎と勘右衛門が出て行った戸を見ている俺へと、突然声が上がる。
何を用意するもんがあるんだと振り向いた兵助は手に風呂敷布を持っている。

「……何だそれ」

「おやつを持って行くに決まっているだろう!!」

「兵助…遠足じゃないぞ?」

「何を言ってる。家に帰るまでが遠足です!!!」

「……ああそう」

うきうきと分かり易く興奮して言う兵助の言葉に俺が返せたのはそれだけだった。
まだ始ってすらいない遠足とやらを、兵助は珍しくも楽しみらしい。
その気持が俺も分からないでもないが、風呂敷に包むおやつが全て豆腐ってどうなんだこれ。

「おい雷蔵、お前も何か言……」

兵助の包む風呂敷から入り切らずにぽろぽろと零れ落ちる高野豆腐を拾いつつ雷蔵に目を向けるが、俺の言葉はそこで止まってしまった。

「ぅうん…、かりんとう持って行こうか。でも重くて荷物になるのは困るし…あ!お煎餅にすれば!…行く途中で割れちゃったらどうしよう……。ふ菓子、ふ菓子ならっ…」

「え、と…雷蔵さん?」

「!!ハチっ!どうしよう僕、持って行くおやつが決まらない!」

どうしようと言って俺の肩を掴んで揺さぶる。
困った顔をして聞いて来られても、俺はおやつなんて持って行くつもりは無いんだけど。
横では兵助が高野豆腐を拾って風呂敷に入れてるし、どうすればいいんだこの状況と天井を見て現実を逃避する事にした。



「八左ヱ門も早く新鮮な幼虫取りに行かないと!!」

「俺は別に好き好んで虫を食ってる訳じゃねぇぞ兵助!」

「俺達は友人が下手物趣味でも見ない振りをするぞ?」

「そこは受け入れろよ!?ってかあの時はサバイバルオリエンテーリングだったからで」

「分かった!!みなまで言うな八左ヱ門!お前の気持ちは分かったから!!人前ではそういう事にしたいんだろう」

「俺の話し最後まで聞けよぉぉぉぉぉ!!!」






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