現パロ

□お兄ちゃんにお願い
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お兄ちゃんにお願い
鉢竹 兄弟





「八左ヱ門、今日はどうする?」

「俺ん家来る?」

俺の両脇から兵助と勘右衛門からの遊びの誘いを受けるが、俺は首を振ってそれに答えた。
それに二人がつまらなそうにするが、訳を言えば大人しくなった。


「今日は雷蔵兄ちゃんが遅いから、買い出し、俺何だよ」

「えー!でもそれじゃあ仕方ないね」

「残念だな」

今日こそはあのゲームで八左ヱ門に勝ちたかったのにと二人は言うが、二人のやり方だと何時まで経っても俺に勝てないと思う。
それは口にはしないけど。
二人だけで特訓だ!とか言っているのを隣で聞きながら俺は分かれ道で二人に手を振った。


「じゃあまた明日な!」

「明日は俺達に付き合えよー」

「何時までも勝ち逃げに何かさせないからな!」

兵助と勘右衛門の声に苦笑し、おうっ!と答えてもう一度手を振ると二人も振り返してくれる。
手を振る二人に背を向けて家に帰る道を小走りに急いだ。

両親が共働きでしかも帰りは遅いので、普段は雷蔵兄ちゃんが二、三日に一回学校帰りにスーパーに寄って食料の買い出しをしてくれるが、今日は週に一度ある雷蔵兄ちゃんの部活の日。
たまたま買い出しと部活の日が被ってしまい、三郎兄ちゃんも今日は用事があるから代わりに俺が行く事になったのだ。


家に帰れば雷蔵兄ちゃんの書いてくれた買い出しメモとお金が置いてあるだろう。
雷蔵兄ちゃんのことだから、余分にお金をくれて何か買わせてくれる筈だ。
俺はそれが楽しみで、家の前に着くと勢いよく玄関を開けた。


「ただいまぁっ!!……って、三郎兄ちゃん!?」

玄関に居たのは三郎兄ちゃんで、学校の制服から普段着に着替えていて靴を履いているところだった。

「ああ、おかえり」

「三郎兄ちゃん何で居るの!?用事は!?これからどっか行くのか!?」

玄関に座って靴を履く三郎兄ちゃんに詰め寄って聞くと、嫌な顔をされて体を引かれたので、俺は慌てて三郎兄ちゃんから離れた。
すると三郎兄ちゃんが、仕方ないと言った風に口を開いた。


「用事は早く終わったから今ここに居る。これから雷蔵の代わりに買い出しに行ってくる」

「え!?でも、それ俺が…」

「ハチじゃ色々と不安だから私が行く」

ぺらぺらと買い出しの紙を見せられて、失礼な事を言われる。
まあ確かに俺自身も不安はあるけど…、三郎兄ちゃんの中で信用がなさ過ぎな気がする。


「……じゃあ、俺も行く!待っててッ!!」

むっとなってそれだけ言うと、玄関を上がり急いで自分の部屋に行きランドセルを下ろすと玄関へと戻る。
三郎兄ちゃんは靴をはき終えて玄関から出ようとしていた。
俺も急いで靴を履くと、玄関を開けて急いで鍵を掛ける。
振り向くと三郎兄ちゃんが黒のデニムのポケットへと手を掛けて待っていてくれた。


「遅いハチ」

「そんなに遅くなってない!」

俺が文句を言いつつ三郎兄ちゃんの隣に立つと三郎兄ちゃんが先に歩き出す。
それに着いて行って、三郎兄ちゃんの手を握ると驚いた顔をした三郎兄ちゃんが俺を見てきたので首を傾げる。

「手」

「手?」

三郎兄ちゃんの言葉に繋いだ手を見てみるけれど、どこもおかしい所はない。
分からなくてもう一度三郎兄ちゃんを見た。

「何で手を繋いでんの?」

言葉に棘はなく、ただどうしてと訊いてくる声に、俺は三郎兄ちゃんが聞いて来た意味やっと理解する。

「雷蔵兄ちゃんと買い物行く時いつも手を繋いでたから…」

三郎兄ちゃんは手を繋ぐのは嫌なのかなと思いつつも、俺は離したくないのでぎゅっと繋いでた手を握ってから三郎兄ちゃんの顔を窺った。
暫く考える様な表情をした後、三郎兄ちゃんの目が俺を見てくる。


「まあいいけど」

その言葉がこのまま繋いでいていい、ということだと気付くのに時間が掛かった。
分かったら嬉しくて、顔を緩ませてもう一度ぎゅって握った。
繋いでいる手から三郎兄ちゃんの温かさが伝わってくるのも嬉しくて、スーパーまでの道のりを俺は今日学校であった事や兵助と勘右衛門と話したことをいっぱい話した。







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