現パロ

□いい子にするから!
1ページ/3ページ

いい子にするから!
鉢竹 兄弟





ただいまー、との声が聞こえて俺はテレビを見ていた顔を上げてリビングの入口へと視線を向けると、直ぐに二人の高校生が入って来た。
リモコンを机に置くと、年の離れた双子の兄達に駆け寄った。


「おかえり!雷蔵兄ちゃん、三郎兄ちゃん!」

「ただいま〜」

俺が近付くと嬉しそうに笑って頭を撫でてくれたのが雷蔵兄ちゃん。
後ろで何の反応も示さずに雷蔵兄ちゃんにだけ視線を向けているのが三郎兄ちゃん。
三郎兄ちゃんを見ていたら、一瞬だけ目が合って直ぐ逸らされるがこれは何時もの事だった。
二人を見ていると少し濡れている事に気付く。

「雨でも降ってるのか?濡れてるぞ」

「ああ、さっき急に振ってきちゃってね、傘持ってなかったから少し濡れちゃった」

でもこれぐらい大丈夫だよ〜、と雷蔵兄ちゃんは笑っているが後ろの三郎兄ちゃんはそんな雷蔵兄ちゃんに心配そうな視線を向けている。
俺は二人から離れるとリビングから出て行く。


「俺タオル持ってくるー!!」

「本当にこれくらい大丈夫だよ〜」

脱衣所に向かうときに雷蔵兄ちゃんの声が追ってくるが、その声はあんまり信用できない。
前も、雨に濡れて帰って来てこれぐらいなら大丈夫って言って放っておいたら風邪を引いたんだから。
こういう所は大雑把で自己管理が出ていない雷蔵兄ちゃんだ。
雷蔵兄ちゃんが風邪を引いた時に三郎兄ちゃんがどれだけ心配したと思ってるんだ。

脱衣所のタンスから綺麗なタオルを二枚取るとそれを抱きしめた。
三郎兄ちゃんが心配するのは雷蔵兄ちゃんと、父ちゃん母ちゃんだけだ。
俺はその家族の中に入っていない、俺だけ。



『ハチ。私は、お前を家族だとは思っていないよ』

前にはっきりと三郎兄ちゃんに言われた葉を思い返す。
俺は三郎兄ちゃんも雷蔵兄ちゃんも、もちろん父ちゃん母ちゃんも大好きだ。
俺がどんなに大好きでも三郎兄ちゃんは俺を家族として愛してはくれないって言ってた。

でもそれは今だけだ。
少しずつ少しずつだけど好きになって貰ってる。
皆には内緒だど、二人だけの秘密だけど、それがずっと守れたら俺も大好きになってくれるって三郎兄ちゃんは言ってたから。



くしゅん、とリビングの方からくしゃみが聞こえて、俺は慌ててタオルを持ち直すとリビングに向かった。
向かった先には不機嫌そうにする三郎兄ちゃんが雷蔵兄ちゃんの肩を抱いてソファに座らせていた。

「何してたんだハチ。雷蔵が風邪引いたらどうする」

「ご、こめんなさい」

「僕は大丈夫だって。三郎もそんな事で怒らないの!ハチ、タオルありがとね」

三郎兄ちゃんに怒られて慌ててタオルを雷蔵兄ちゃんに掛ける。
雷蔵兄ちゃんはお礼を言って抱きしめてくれたけど、三郎兄ちゃんはやっぱり不機嫌に俺を見ている。
もう一枚のタオルを三郎兄ちゃんに差し出すと受け取って貰えた。
二人して同じ色をした髪を拭きだすが、拭き方にはそれぞれ違いが出ていた。

雷蔵兄ちゃんは、やっぱり大雑把に頭をガシガシと拭うと、後は肩を軽くタオルで掃うとそれでお終い。
三郎兄ちゃんは、髪の毛の雫を全体的に丁寧に拭って全身の雨粒もきれいにふき取る。
そうして雷蔵兄ちゃんの置いたタオルを持つと、雷蔵兄ちゃんにも自分にやったのより更に細かくタオルで拭きだした。


「ハチ〜、今日は学校で何があったの〜?」

三郎兄ちゃんが雷蔵兄ちゃんを拭きだした事は当然のように雷蔵兄ちゃんは気にしないで、俺に何時もの日課となった報告タイムを始めてくる。
ちらりと三郎兄ちゃんに目を向けるけど、全く俺の方は見てくれなかった。
雷蔵兄ちゃんにくしゃみさせたからまた嫌われたのかもしれない、少しずつ貯めた好きがまた減ってしまった。
でもこれは雷蔵兄ちゃんには内緒だから俺は気付かれない様に悲しい気持ちを隠して、雷蔵兄ちゃんに笑顔を向けた。


「んと、今日はな〜大っ嫌いな算数があったんだけど、この間雷蔵兄ちゃんが教えてくれたところが出て、俺答えられた!」

先生にも褒められたんだぜ!って言うと雷蔵兄ちゃんは自分の事のように喜んでくれて頭を撫でてくれる。
それが嬉しくて雷蔵兄ちゃんに抱きつくと、その振動で三郎兄ちゃんの持っていたタオルが落ちて睨まれてしまう。
それが怖くて、雷蔵兄ちゃんの腹に顔を押し付ける。
後ろに居る三郎兄ちゃんの顔は見えなかったみたいで、雷蔵兄ちゃんはどうしたのハチ〜って嬉しそうに言いながら抱きしめ返してくれた。








.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ