現パロ
□こんな朝も日常ですよ
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こんな朝も日常ですよ
鉢屋さん 鉢にょ竹
一度目のアラームを止めて二度目が鳴るまでの五分。
この五分が八左ヱ門は好きだった。
二度寝をし、やたら長く感じる五分間が。
日々時間に追われる現代社会人である八左ヱ門にとって、この五分間は至福の時だった。
「…――…さん!」
何時もより長く感じる五分間に身を委ねていると、声と共に体が揺すられる。
それに睡眠の中にあった意識が声の方へと引かれて行く。
「お母さん!!」
再び揺する力は先程より強く、声も大きく近い。
それに嫌々ながらも目を開けると、困った色を湛えた栗色の瞳が八左ヱ門を見ていた。
「…らぁいぞぉ…?」
むにゃむにゃと夫そっくりの顔に眠気が抜けきらない半眼を向けると、その頬にぺちりと小さな手を添えられた。
「遅刻しちゃうよ?ハチ」
小首を傾げて言う雷蔵と無意識に同じ方に首を傾けた八左ヱ門は、言われた言葉を頭で反芻する。
一拍置いて、がばりと掛け布団を押し退けて手近にある目覚まし時計を見ると7時を指していた。
「おほー!?ち、遅刻する!?ちょ、三郎!!」
大慌てで隣で寝ている三郎を揺すり起こそうとするが、感触は無く、それに体を向けるが八左ヱ門の隣は蛻の殻だった。
それに呆然としていると、パジャマの袖口を引っ張られる。
「三郎ならもう起きてるよ?」
「えぇ!?」
「朝ご飯作ってる」
雷蔵がそう言って手を引っ張るので、ベットから這い出た八左ヱ門はそれに引かれて寝室からリビングの方へと向かう。
寝坊の衝撃で眠気が吹っ飛んだ八左ヱ門は、自分の大分下にある頭を見つめる。
「雷蔵、起こしてくれてありがとな!」
小さな頭を撫でると、雷蔵は嬉しそうな笑顔で振り向いた。
容姿は三郎似だがこういう素直な所は俺に似て良かったな、と心中で呟く。
「雷蔵は何時起きたんだ?」
「三郎に起こされた…」
何時もならハチが起こしてくれるのにと小さく呟かれた。
雷蔵が可愛くて仕方がない三郎の事だ、恐らくまた起きるまで頬ずりするとか雷蔵のベットにもぐり込むとかやったのであろう。
それもこれも寝坊した自分の所為だと思うと申し訳なくて、八左ヱ門は謝るしかない。
「ごめんな、雷蔵。俺がちゃんと起きてれば三郎を止めたのに…」
「大丈夫だよハチ。ちゃんと股間蹴って撃退したから!」
清々しいまでの笑顔を向けられるが、内容はそれなりに酷いものだ。
八左ヱ門はそんな雷蔵にあ、そうとしか返す事が出来なかった。
触らぬ神に祟りなしだ。
「…程々にな」
「はーい!」
返事だけは明るいが雷蔵が何を考えているやら。
八左ヱ門は、止まる事は無いだろう三郎の可愛がりに雷蔵の怒りが見えた気がした。
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