現パロ
□まっくらの中で
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まっくらの中で
鉢竹 兄弟
ドンッと音がしてソファ越しに窓を見ると、その向こうでは空が白く光っていた。
続いてゴロゴロと地鳴りのような音が鳴って俺が身を縮めると、両側から別々の反応があった。
「大丈夫だよハチ。僕も三郎も傍にいるから」
にっこりと笑って頭を撫でてきたのは左側にいた雷蔵兄ちゃん。
その反対横で三郎兄ちゃんがふんと鼻を鳴らした。
「十歳にもなって雷が怖いのか」
馬鹿にしたように口元で笑いながら俺を見る右側に座る三郎兄ちゃん。
雷が怖いのが知られたくなくて俺はムキになって、三郎兄ちゃんの言葉を否定する。
「こ、怖くねーよ!雷なんて!…ぅわっ!!」
言った傍から響いた雷の音に声を上げた俺を見る三郎兄ちゃんの目はやっぱり俺を馬鹿にしている。
ぷいと三郎兄ちゃんから視線を外して、俺は雷蔵兄ちゃんに抱き付いた。
雷蔵兄ちゃんは大丈夫だよと呟いて俺の頭や背中を撫でてくれる。
「落ちないといいねぇ」
「…ん」
「落ちたらハチは泣き叫ぶだろうな」
「そんなことねぇもんっ」
「こら!三郎!」
あやしてくれる雷蔵兄ちゃんに体を寄せて話していると、三郎兄ちゃんも入ってきて俺を揄ってくる。
大好きだけどこういう所は嫌いだと睨むと、三郎兄ちゃんも俺にべーと舌を出す。
でもすぐに雷蔵兄ちゃんに頭を叩かれて怒られている。
「もーっ!いい加減にしなさい!」
「…だって雷蔵が私に構ってくれないんだもん。ハチばっか構いやがって」
最後の言葉は俺の方を見て睨んでくる。
そんなこと言われても、三郎兄ちゃんは俺を弄るばかりで家にいるのは三人なんだから他に俺が頼れるのは雷蔵兄ちゃんしかいないのだ。
俺が困った顔して固まっていると、三郎兄ちゃんは雷蔵兄ちゃんに子供みたいな事言わないの!とまた怒られていた。
その時も俺を睨んでいたから、また意地悪されるかもしれない。
雷蔵兄ちゃんのいない所で特に夜とかに。
俺は自分の想像に背中が震えるのを感じて、少しだけ恥ずかしくなった。
「ハチも温かいもの飲めば落ち着くよね?」
ソファから立ち上がってキッチンの方へ向かった雷蔵兄ちゃんに返事をして、視線を感じて横を見ると、三郎兄ちゃんがすごく近くにいた。
なにという言葉は先に言われた三郎兄ちゃんの声に飲み込まれてしまった。
「私の前で雷蔵に甘えるとかハチのくせに生意気だな」
「だって!俺、」
「言い訳は聞かない」
一方的に言い切る三郎兄ちゃんに流石に俺もカチンときてしまう。
むっとして三郎兄ちゃんを見ると、三郎兄ちゃんも俺を見下ろしていて、俺の意見はどうでもいいとでも言うような態度だ。
「三郎兄ちゃんが、俺を馬鹿にするからっ…」
「だってハチ馬鹿だろ。私が何度言っても、同じ事繰り返すし」
「はぁ?」
何の事か分からなくて見返すと、そんな事も分からないのかとまた馬鹿にした目で見てきた。
すっと手を出される。
「そういう所が馬鹿なんだよお前は」
「…ふがっ!?」
鼻の頭を掴まれてぎゅーっと挟まれる。
藻掻いてそれから逃れようとするけど、三郎兄ちゃんは力を弱めてくれないので逃げられない。
すると、カップを三つ乗せたお盆を持って戻ってきた雷蔵兄ちゃんに引き剥がされた。
心なしか雷蔵兄ちゃんの顔が不自然に笑顔だったのは俺は見なかった事にしよう。
そしてそのまま引き摺られてどこかへ連れて行かれた三郎兄ちゃんも見なかった事にする。
三郎兄ちゃんの目が最後まで俺を見ていたけど、俺には雷蔵兄ちゃんを止める方法知らないし、仕方のない事だとあっさりと諦めるのだった。
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