現パロ

□夏と情熱とお隣さん
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夏と情熱とお隣さん
鉢にょ竹 お隣




「本っ当、鉢屋先生ってカッコイイよね〜!!」

「優しいし」

「頭いいし」

「教師なんだからそれは当然だって!あと、冗談通じるし」

「大人の余裕があるし」

「何と言ってもイケメンだし〜!!」

ひとりの女子がうっとりと言った言葉に、その話しの輪にいた数人の女子が頷きながら騒ぎだす。
彼女たちの席の近くにいた竹谷は話の流れは知らないが、その部分だけが耳に入った為、机に頬杖を付いてその会話に聞き耳を立てた。

「恋人だったら最高なのになぁ」

「あんたじゃ無理。でも確か、鉢屋先生って彼女いるんじゃなかった?」

「何それ初耳!!」

発言した女子の周りの女子達が詳しくと促すので、その子も聞いた話なんだけどさと曖昧な顔で続ける。
竹谷もその時一度だけぴくりと体を反応させて、耳を欹てた。


「なんか、……前に不破君が久々知君と尾浜君に言ってたのをチョロっと聞いてたんだけど。年上の彼女がいるって」

「「年上!?」」

驚いたのは竹谷も同じであった。
雷蔵の名前が出てきたことも然る事ながら、兵助と勘右衛門の名前も出てきて、雷蔵が二人に自分たちの関係を話したのかと冷や汗をかく。
しかし、年上、と言うのは竹谷のことではない。
矛盾に心の中で首を傾げて、彼女たちの会話の続きを待った。

「不破君、三郎は年上好きだ。って言ってた」

「うそ……」

「私達に全く可能性が無いと…?」

「いや!そんな事無いよ!!」

がっくりと項垂れる女子達に一人の女子が机をバンっと叩いて腰を上げたので、項垂れていた女子達は一様にその者へと視線を向けた。
全員からの視線を受けた彼女は、どこか満足げに見上げてきた女子達を見まわす。


「だってさ、年下もイイって事を分かって貰えばいいんじゃないっ!」

「その手があったか」

「成る程、初めての年下彼女のポジジョンとか…超最高じゃん」

「でもさぁ。今、年上の彼女いるんだよね?」

「はんっ!年上がなんぼのもんよ!鉢屋先生より年上って事は30近くでしょ?おばさんじゃん!!」

「そうだよ!若い方が良いに決まってるじゃない!」

そうよそうよと騒ぎ出して熱を上げる彼女達の会話を聞いていた竹谷は、その女子達には聞こえないように溜め息を零す。
心の中でごめん、三郎の今の彼女は年下で貴女達と同じ年なんだと謝っておいた。

そもそも始めから間違っていた。
彼女達の言う優しく、頭がよく、冗談が通じ、大人の余裕のある『鉢屋先生』はあくまで猫を被った三郎でしかない。
本来の三郎がどんな人物か知れば彼女達も幻滅してそんな事を言わなくなるのではないだろうか。
知らないって幸せだなと、竹谷は遠い目をして窓の外を眺めたのだった。


そこで思考を中断させた竹谷は気付いてはいない。
もしもその三郎も好きと言って本気で好意を伝えてくる者が出てくるのが本当は一番怖いのだと、考えたくなかったという事に。











「って彼女達は幸せだよな…本っっ当に!!!」

「行き成り何の事か分かんないんだけど?」

「私の方が分かんねぇよ!!」

ん?と首を傾げる隣人であり教師であり恋人である三郎を竹谷は睨み上げて蹴り飛ばした。
その足を軽く避けてベットから降りた三郎に、竹谷は鋭い視線を向けた。
無理矢理に起こされた竹谷は不機嫌に問い掛ける。


「で、何の用だ」

「ちょ、はち酷い!私ずっと待ってたのに、はちが昼になっても来ないから起こしに来たんだけど!?」

「今日行くとか約束してなかったよな?」

「そうだけど、……休日ぐらい恋人に会いたいだろ」

「…毎日会ってるし」

呆れた目線を向けて息を吐いた竹谷のベットへと戻ると、三郎はおはようのちゅーと称してと唇をくっ付ける。
嫌がらない竹谷に気をよくした三郎が竹谷を抱きしめた。

「それは先生としてだろ。はちの恋人として会いたいんだ」

ぐりぐりと頭を竹谷の額へと押し付ける三郎が少しだけ可愛くて撫でてやると、その顔が嬉しそうに笑う。

「あと、ちょっと頼みたい事あったし」

「は?……!?」

頼みたい事ってなんだ?という言葉は、ベットの横から取り出された物を突き付けられて喉の奥へと戻っていった。

絶対、三郎の本性を知らない彼女達は幸せ者だ。
そう遠い目をしても目の前の恋人から逃げられない竹谷が、必ずしも不幸せではないのは竹谷が一番理解していたが。






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