頂*捧*企
□はちはち
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鉢竹 はちはち企画
一日目
前方へと進みたいのに、服を掴まれて遅々として進めない。
手に持つ小さな明かりを揺らして振り向くと涙を浮かべた鼠色とかち合った。
「服を引っ張るなハチ」
「無理怖い」
溜め息交じりに言えば、先程から何度も呟かれて聞き飽きた言葉が聞こえてくる。
三郎が一度立ち止まって大きく息を吐くと背にぶつかる小さな衝撃があった。
「おまっ!急に止まんなよ!!」
文句を言いたいのは此方なのに衝撃を加えた相手から吃驚するだろ!と声が上がる。
周りを落ち着かなく見て怖い怖いと呟きながら歩いていた竹谷の事だ、三郎が止まった事に気付かなかったのだろう。
仮にも忍者のたまごだろうと言いたくなった三郎だが、これ以上喚かれるのも面倒くさいと言葉を呑み込んだ。
「夏らしい行事をしようって、何で肝試しなんだよっ!馬鹿だろ!?馬鹿なんだろう!?」
暫く止まって何も言わなくなった三郎に何を思ったのかは知らないが、竹谷から抗議が聞こえる。
最後は怖くなったのか口調が誰だよ状態になっている竹谷は相当恐慌状態になっているらしい。
と、冷静に竹谷を分析していた三郎を前に竹谷の文句は続く。
「夏と言ったらかぶと虫捕りとかくわがた捕りとかかまきり捕りとか色々あんだろ!何で肝試しなんだよ!?」
怖ぇよーと情けない声が追加される。
服を強く握られた三郎はその場所が皺にならないか心配になった。
「お前の夏の行事は昆虫採取しかないのか?肝試しは五年全員で話し合って決めた事だろ」
「俺は反対した!!」
「多数決には敵いません〜」
そもそも肝試しを提案したのが雷蔵である以上、どんな事をしても五年生に頷かせる心算でいた三郎ではある。
そんな裏工作をしなくとも、他の意見が昆虫採取と流し豆腐だった時点で勝ちは見えていたのでしないで済んだが。
もっと、海に行くとか西瓜割りとかあるだろうとも言いたくもなるが、それが決行して雷蔵が悲しむ姿を見る事を考えると其れらもどうでもよくなる。
丁度今日は六年生が実習でいなく、先生達も其れに繰り出されて少ない。
一応、学園長には許可を得ているが邪魔者はいないに越した事は無いだろう。
それらも相まって、辺りは暗く静かで、夏にしては冷たい風が吹く今夜は絶好の肝試し日であった。
只一つ、三郎の失敗はくじに細工をしなかった事。
今まで運命と言える確率で雷蔵と組む事が当たり前だったので、雷蔵と一緒になるだろうと高を括っていた。
結果、ペアになったのは竹谷だったのだ。
その時くじを示し合わせた時の互いのがっかりとした表情はない。
「私は雷蔵とが良かったなぁ…」
ぽそりと呟いた三郎の言葉に頷きが返る。
「俺も!雷蔵だったら優しく導いてくれたよっ!!せめて…兵助いや、勘ちゃんが良かった!!」
涙を溜めて強く言う竹谷に苛っとした三郎は眉根を寄せて不機嫌を形作る。
竹谷に優しくなんて、するつもりも予定も無いがい組の二人の方がマシだと言われるのは癪に障る。
「ほぉ、私だと不服だと?」
「当たり前だろ!三郎は絶対、俺の怖がった様子を面白おかしく話すだろうがっ!!上にも下にも広まるしぃ!!」
「まあ否定はしない」
「しろよっ!否定!!てかマジ止めてっ!」
するならば、ある事ない事を付け加えて、だがと三郎は内心でほくそ笑んだ。
期待されているならばそれに応えてやらねばといい方向に三郎は解釈する。
「何だ、その顔」
じっと疑いの目で見ている竹谷に、表情には出していなかったのに気付かれた事に少し感心する。
野生の勘というやつかと納得して、仕方ないと歩き出した。
「うおゎ!!?」
三郎が歩き出したと同時に引っ張られた竹谷が驚いて声を上げるのに軽く振り返って竹谷を見ると、想像と違わぬ表情。
それに三郎はにやりと笑う。
「そんなに望むなら、私が優しく導いてやる」
そう言って三郎は竹谷の手を握ったまま歩き出した。
先程まで煩い程に聞こえた呟きも今は聞こえず、静かになった後ろを感じながら久しぶりに誰かと手を繋ぐ事も悪くないと、三郎は思った。
「にぎゃーーーーーー!!?」
「何だ?」
「ししししし白いものが…飛んでる……ふぉっ!!何か首にべちゃって…!!」
「痛い痛い!ハチ抱きつくな!!」
「くくく首のとってぇぇぇ」
「落ち付けっ!」
「むりぃ〜俺、お化けに食われちゃうんだ〜」
「…取れたぞ」
「……………豆腐……?」
end
肝試し。
竹谷はめっちゃ怖がるか、平然とするかだよね。
三郎は幽霊なんて信じてないから言わずもがな。
因みに他のペアは。
兵助・尾浜ペア…非科学的なのは信じて無さそうだけど、予想を超えるものが来たら誰よりもパニくりそう(#´∀`#)
雷蔵は外れくじを引いてひとり。
案外平気、怪談本とか読んでそうだしね〜!
ただペアがいたらその人の雰囲気に呑まれる。
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