頂*捧*企

□はちはち
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鉢竹 はちはち企画





七日目






分からない感情が胸の内を占める。
不安定でふわふわとしたその感情は三郎の中に確かにあって、それに自分が支配されている気がしてならない。


盛大な溜め息を漏らした三郎に、同じ部屋に居た雷蔵が本から視線を此方へ向けるが直ぐに元へと戻ってしまう。
寂しい。
もう少し何らかの反応をして欲しいと再度溜め息を吐くが、雷蔵からは反応どころか身動きすらなく本を読み続けていた。

「…雷蔵。せめて話聞いて」

三郎の声にのそのそと目を上げた雷蔵は、仕方がないという雰囲気丸出しで言葉を発する。

「何、三郎」


「……もう少し身を入れて聞いてくれてもいいじゃない」

口を尖らせて言う三郎に雷蔵は得意のにっこりとした笑みを返す。
それに思わず体を引くと雷蔵からの言葉が追いかけてきた。

「ええ〜面倒くさい。三郎の話を聞くぐらいなら本を読んでた方が勉強になるよ」

「酷い!!」

そう言いつつも話を聞く体勢になってくれている雷蔵に抱きつくとそれとなく押し返された。
それ以上やると雷蔵の笑顔がもっと怖くなるので大人しく座った三郎は、雷蔵へと話し始める。

「最近私、おかしいんだ」

「三郎がおかしいのは今に始まった事じゃないよね」

「話の腰を折らないでっ!」

やれやれといった感じで三郎を見てきた雷蔵に泣いて頼むと、やっと本格的に話を聞いてくれた。

「動悸と息切れとめまいが同時にする事があるんだけど、どう思う?」

取りあえず、と言って切り出された三郎の言葉に雷蔵はう〜んと頭を傾げた。


「僕、保健委員じゃないから分かんないや」

暫く悩んで辿り着いた答えを口にすると、三郎ががくっと頭を下げた。
俯く三郎の頭に雷蔵が手を掛けて一つ問う。

「それは、誰と一緒に居てなるの?」

静かな声で問うた雷蔵に三郎は身を微かに揺らす。
きっとこの感情は雷蔵には分かっていて、それを三郎が認めたがらないのも分かっている。
だから『誰と』と聞いたのだ。

問いに一つの顔を思い浮かべ、その名を言うと雷蔵が嬉しそうに笑うのが分かる。
認めたくはないけれど、誰よりも大好きな雷蔵に肯定してもらい背中を押されれば前に進める気がしたのだ。

三郎の頭にあった手がいいこいいこと撫でる。
その手が止まり浮いたので三郎が顔を上げると、部屋の戸が開いたのだった。


「雷蔵居るかー?」


半分開けられた戸から覗いた顔が部屋の中を見渡した。
雷蔵を見付けると嬉しそうに駆け寄った。

「どうしたのハチ?」

「さっき、きり丸に呼びとめられて委員会で不備が起きたから雷蔵を呼んでくれって言われたんだよ」

「そっか分かった。ハチ、今委員会の帰り?」

「そうなんだよ!今日は虫の脱走も無かったから早く終わった!!」

雷蔵に嬉しそうに報告する竹谷に三郎が目を向けると、その視線が合う。
首を傾げられたので顔を逸らしてしまうと、竹にそれを勘違いされる。

「ああ、雷蔵との時間邪魔して悪かったな。俺はもう行くから。雷蔵!きり丸待ってるから行ってやれよ!」

そう言って出て行こうとする竹谷を止めたのは雷蔵だった。

「あっ!待ってハチ。僕は直ぐにでも図書室に行くから、三郎が持って来た茶菓子を食べて行きなよ。ね、三郎?」

雷蔵から三郎へ視線を向けて、竹谷が嬉しそうに目を輝かせる。

「え、茶菓子あるのか!?」

「しょうがないからハチにも施してやろう」

んで上から目線!?と言ってくる竹谷を無視して、三郎が菓子の仕舞ってある戸棚を開けていると雷蔵が立ち上がる。

「じゃあ僕はきり丸の所に行ってくるね。あ、僕の分も残しておくんだよ?」

言い残して三郎に意味深な目線を向けると雷蔵は部屋から出て行く。
竹谷が行ってらっしゃ〜いと手を振っているのを横目に見て三郎は息を吐く。

「お前はお茶を用意するとかいう気配りは出来ないのか。雷蔵ならやってくれるぞ」

「雷蔵の気配りは凄いよな〜。じゃあ俺食堂から持ってくるから、先に食べんじゃねぇぞ!!」

立ち上がって駆け足で食堂へ向かう竹谷に三郎がお前の菓子じゃないだろ!と言ったが聞こえたかどうかは定かではない。
暫く間を置いて掛け足が戻ってくる。
戸を開けてやると、湯飲みを二つ乗せた盆を持った竹谷が部屋へと入ってくる。


三郎の持って来た茶菓子は練り菓子だったのだが、楊枝を持っていなかったのでそれを手掴みで食べた。

「んまい!!」

「当然だな。学園長先生お勧めの茶菓子やのだからな」

そう言ってやると竹谷はいいな〜と呟く。
それに視線を向けると口元に菓子屑を付けた竹谷が言う。

「委員会で茶菓子出るとか羨ましい!」

「ならば学級委員長になるか?」

三郎の問い掛けに竹谷は考えるようにして頭を捻るが、その首は横に振られる。

「いやぁ、俺に学級委員長とか無理だな」

「だよな」

竹谷の言葉に納得して三郎が頷くと、歯をにっと見せて笑う。


「やっぱり五年ろ組の学級委員長は三郎しかいないだろう!!」


笑顔と言葉に顔を赤らめた三郎に竹谷は珍しーと言って笑うのだった。
それに苛っときた三郎は、竹谷の口元に手を伸ばすと菓子屑を取ってそれを舐めたのだった。


赤くなった竹谷を見ながら。











「あれ?雷蔵?」

「勘ちゃん!今日委員会なかったんでしょ?何してんの?」

「自習だよ。明日の授業の予習してた。雷蔵は?図書委員に聞いたら今日は当番じゃないって言ってたけど…」

「うん、ちょっとあってね。それも何とかなって部屋に戻るんだけど、勘ちゃんも行く?美味しいお茶菓子あるよ」

「三郎が内緒で持っていったやつか!俺まだあれ食べてないんだよな〜」

「じゃあ決まり!」

「あ。兵助も誘って行くか!!」

「そうだね〜」







end

日が進むにつれぐだぐだになって行く!!

次回で終了も感慨深いものです。
合間合間に書き繋いで何とかここまで来れました(´∀`)

くっ付くといいな〜鉢竹←此処まできておいて

兵助出番なかったね…。

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