頂*捧*企
□はちはち
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鉢竹 はちはち企画
六日目
丁度午前になった今、竹谷は何故か三郎達の部屋に居た。
昨日は普通に風呂に入って自室の布団で寝た筈だ。
風呂上がりに、雷蔵に何やら言われた気もするが眠かった竹谷はそれに適当に頷いた。
それが今の状況の理由なのかと思い当たり頭を回転させて考えるが、竹谷には雷蔵の言った内容を思い出せはしなかった。
周りを見渡すと竹谷と同じく寝間着姿の三郎と雷蔵と兵助と尾浜が、何やら準備に取り掛かっている。
何時の間にこの部屋に来たのかも記憶は曖昧で、状況が分からずに首を捻る竹谷に渡されたのは一本の蝋燭だった。
「ほら、ハチ!その蝋燭を燭台に立てて火を点けて」
上機嫌の雷蔵の言われるままにそうすれば、他の皆も各々の前にある蝋燭に同じ様に火を灯す。
戸を閉め切られ、五人が円を描く様に座り、目の前には蝋燭とくれば。
「じゃあ、怪談を始めようか」
雷蔵から無情にも告げられた言葉に、自分の状況を理解した竹谷は声にならない悲鳴を上げたのだった。
言い出しっぺである雷蔵から右回りに会談は始まり、次いで兵助、尾浜、竹谷、三郎の順で雷蔵に戻る。
一話ごとに蝋燭を消していき一周したら一斉に火を灯してまた初めからを繰り返す。
百物語であったなら、怪談を百話せば終わるのだが此れはただの怪談。
終わりは見えなくて、竹谷以外の人達は話題が尽きる事はなく話し続ける。
簡単なものは竹谷に取って置いてくれているらしく、口々から出る話は竹谷はどれも聞いた事がないものばかりだった。
それがまた恐怖を煽る原因でもあるのだ。
何ともない怪談話を竹谷が話すのとは異なり、雷蔵は内容を細かく想像しやすいように話し、兵助は怖いぐらいに淡々と、尾浜は身近な事でさもあったかのように、三郎は恐怖心を煽るように話すものだから怖くて堪らない。
他の四人が純粋に怪談を楽しんでいるものだから、部屋に戻ると言う一言さえ竹谷は口に出来なかった。
それでも自分の順番は回ってくるもので、竹谷の口数は次第に少なくなっていった。
「ああ。そう言えばさ、この間行った肝試しの場所って曰くがあるんだってね」
竹谷の前、尾浜に順番が回った時に出た言葉に小さく肩を揺らす。
「え!なにそれ!?僕聞いた事ない」
「それは興味あるな」
尾浜の言葉に身を乗り出した雷蔵と兵助に、蝋燭の小さな明かりで照らされた尾浜がうっそりと笑みを浮かべる。
竹谷にしたら身近どころか最近行った場所なので恐怖をぶり返したくないから話しては欲しくない。
が、そんな竹谷の願いは聞き届けられるはずもなかった。
「あの肝試しの最後の小道に小さな地蔵様があっただろう。昔ね、あの地蔵様を毎日参りに来ていた女の人がいたんだって。只何か願うでもなく手を合わせるだけのお参りを繰り返していた女の人は、ある男を好きになったんだ。二人は相愛になるんだけど、身分の差で一緒になることは認められなかった。逃げて一緒になる事を選んだ二人は、その小さな地蔵様に最後のお参りをしたいと女が言うから立ち寄る事にしたんだ。でもその途中、野盗に襲われて男は自分を犠牲に女を逃がした。けど女の方も深手を負っていてね、助かりはしなかった。地蔵様の前で息絶えた女は最初で最後の願い事をしたんだって」
言葉を切って周りを見渡した尾浜に、竹谷はごくりと喉を鳴らして視線を逸らす。
逸らした先に三郎の目があり、それを避けるように俯く。
竹谷の隣で囁かれた女の願いに背筋がぞわりと粟立って、震えそうになる体を必死で抑える。
怖い、と口に出す事も出来ずに俯いている竹谷に次はハチの番だよと声が掛かるものも、その体勢のまま動くことが出来ない。
「悪いけど、私飽きたから寝るわ。ハチ部屋貸して」
左隣で声が聞こえたと思うと、手首を掴まれた立たされる。
そのまま引き摺られるように戸口に向かい、一度止まると三郎は後ろに居る三人に話し掛ける。
「雷蔵達は続けてていいぞ」
そう言って戸を開けて出て行く三郎に竹谷ばかりか後ろの三人も呆気に取られて言葉はない。
戸が閉められて、助け出された事に竹谷がようやく理解をして顔を上げると三郎の呆れた視線とぶつかった。
「あ…ありがとな」
自然に出てきた言葉に驚いた表情を見せたのは一瞬で、指で額を弾かれる。
「またあんな醜態を皆に晒すのは雷蔵達が可哀想だからなっ!」
そう言って竹谷の自室へと進んで行く三郎の照れ隠しに笑ってしまう。
それによって緊張が解かれた竹谷は、急激な疲労と眠さを感じながら三郎に続くのだった。
「なあ…」
部屋に戻って早々と予備の布団を敷いて横になっている三郎に声を掛けると、返事はないものの視線が竹谷に向く。
僅かながらに躊躇って竹谷は口を開いた。
「……一緒に、寝てくれないか」
この際、三郎にはばれているのだし少し恥ずかしいが一人で寝るのは怖いと続けると、三郎の目がこれ以上ないぐらいに見開かれた。
雷蔵の目ってそんなに大きくなるんだなとそれを見ていた竹谷に、大きな溜め息が吐かれる。
「ったく五年にもなって怪談が怖いとか言ってんなよ」
忍者としてどうなんだとも続けられ、言葉は棘があるが仕方がないというのが雰囲気で分かる。
それに甘えさせてもらって布団をく付けた竹谷はもぞもぞと布団の中を移動して三郎に張り付いた。
「…近くないか」
「人の体温感じてないと眠れる気がしねぇ」
ぎゅう、と衣にしがみ付くと呆れ果てたのか三郎には言葉も無かった。
三郎の人より低い体温でも竹谷には安息の場所だった。
「なぁ」
「…なんだ」
「三郎も怪談怖かったのか?」
暫く身体をく付けていると聞こえた心音は竹谷のそれより随分と早い。
竹谷の言葉にく付けていた身体が微かに上気するのを感じ三郎に問いかけようと口を開くも、その温かい体温と自分とは事なる早さで掛ける心音に眠りへと落される。
最後に何かを三郎に言われた気がしたが竹谷の意識は夢へと旅立って行った。
「隣、静かだね」
「まあ俺達が居るの分かってるから三郎も無体な事はしないでしょ」
「次は俺の番だな」
「…もう兵助はいいんじゃない?」
「豆腐の話ばっかだもんな〜」
「まだ最後の取って置きの話があるんだ!!」
「え〜」
「何〜」
「その名も豆腐小僧!」
「確かに兵助の豆腐好きは最早怪談ものだけどね」
「自分の事話すって……」
「違う!!妖怪豆腐小僧の話だ!!」
「……ああ!豆腐持ってるだけの妖怪ね」
「怖くもなんともない妖怪か」
「実はそんな豆腐小僧にも豆乳が滴るような、恐ろしい話があるのだ〜」
「豆乳が滴ってる時点で恐怖の欠片も感じないな」
「怖い話が聞きたいよ〜」
end
またまた遅刻☆
うん。もう反省はしない!
だって無理なんだもん!!←開き直り
途中まで三郎が空気ですね〜。
あと二日でどうにかなんのかしらこの二人(=Å=)
怪談のオチとか考え付かなかったです!
皆さんの想像力にお任せします(≧∇≦)
怖い話って読むのは好きなんだけど夜眠れなくなる虚です。
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