頂*捧*企

□雨に潜む
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雨に潜む
綾タカ 六樹様へ

10000Hitおめでとうございます!!







酷い雨。
ざあざあと激しく降る雨を綾部は戸を開けた自室で眺めていた。

何時もなら口煩く戸を閉めろと言ってくる同室の滝夜叉丸も今日は何処かへと行っていていない。
人一倍向上心の強い滝夜叉丸のことだから、きっと図書室にでも行っているのだろう。
そういえば三木ヱ門も今日は図書室で勉学に励む!とか意気込んでいた。
その内図書室の方面から何時もの口喧嘩が聞こえてくるのだろうと、綾部は冷静に思った。



戸口へと寄った綾部は、外を眺めるのを止めずに半身を廊下へ投げ出して座る。
多少の雨であれば穴掘りが出来るのだが、流石にこの土砂降りの雨の中ではその動きすら無意味なものになるだろう。
特にこの時期は、雨が多いので土が脆く穴を掘るのには適していない。
仕掛けた落し穴も雨で全て晒されてしまう。


「何とも私には適さない季節だ…」

雨の季節が始まる前に掘った穴達を考えると、この雨が敵にすら見えてきてしまう。
まあ、この季節が過ぎてまた一から作り直すというのも楽しみと言えば楽しみなのだが。
そのまま綾部が雨を睨みつけていると、ふと浮かんだ顔について思案する。
あの人にも、この長い雨は似合わない。

何時も陽だまりの様な笑顔で周りをも笑顔にするあの人。
自分の、想い人。
綾部は胸元の衣をぎゅっと握り温かな蜜色を想った。
穢れを知らないその人を欲しいと思い、綾部は握っていた手を解いて見つめる。


静かに立ち上がった綾部は廊下から外へと足を踏み出した。
乾いた衣は一瞬で雨に濡れて色を深くする。
水を吸って重くなった髪と衣はその身に纏う枷の様だ。

この想いを堰き止めて置く為の。


決して気付いてはいけなかった。
自分は、我慢の強い方ではないと綾部は分かっていたから。
次に何を求めるのか、よく分かっていた。
頭では理解していても心は彼に会うたびに、彼を欲していく想いは強くなる。

手を伸ばしてはいけない、私が穢してはいけない。
雨に濡れる体は刻一刻と冷えていくのに、この身の内の想いだけは冷えてはくれない。
ふいに零れた涙は、まるでそれを表すかの様に温かかく頬を伝った。




この雨で何もかも流してしまえたらいいのに





頬に流れる涙が何時しか只の雨になった頃、それでも綾部は雨に打たれ続けていた。


「なにやってるの!!」


突然叫ばれた声に綾部がゆっくりと顔を向けると、既に廊下から綾部の方へと走って来ているタカ丸がいた。
その格好は寝間着姿で首には手拭いを捲いているから、恐らく何らかの事情で風呂に入ったのだろう。
ただ、今綾部の所へと雨の中来ているのでそれらは全て無駄になるのだが。

ぼんやりとタカ丸を見ていた綾部は、その場に来たタカ丸に突然抱きしめられる。

「こんなに冷えてる!どれだけ此処に居たの!?風邪ひいちゃうでしょ!?」

珍しく本気で怒っているタカ丸に、綾部はそれは貴方も同じですよと言おうとしたが雨に冷えた唇が上手く動かない。
唇の動きで何となく察したのであろう、タカ丸は綾部を屋根のある方に引っ張りながら口を開く。

「僕はお風呂に入ったから大丈夫なの!!」

そう言うが、繋がれた手から体温が奪われていくのが分かる。
その体温を奪う一端を担っている自分の手は逆に温かくなっていくのだ。

綾部の部屋の前まで来るとタカ丸は自分がしていた手拭いの水分を絞ると、それで綾部を拭きだした。
部屋に入れば乾いた手拭いがあるのだが、余程焦っているのだろうタカ丸はその事には気付いていない。

「こんなに冷たくなるまで、何で雨に当たってたの?」

声は穏やかだが怒っているのは雰囲気で分かった。

「…少し頭を冷やしたかったんです」

寒さで声が小さくなってしまったが、この距離ならタカ丸にも届くだろう。
何故、とはタカ丸は聞かなかった。

「タカ丸さんは?」

深く追求して来ないタカ丸の優しさに綾部は心の中で感謝し、問う。

「湿気から守るために焔硝蔵の整理してたんだけど、汚れちゃったから先にお風呂に入ったんだ」

でももう一回入らなきゃねと言って綾部に笑った。
タカ丸を見ると、綾部ほどではないにしろ着換えなければならないほどには濡れてしまっていた。
触れてくる手は少し前までは湯で火照っていたのだろう、今は雨で冷たくなっていた。
自分と同じぐらいの冷たさに、綾部は心地良さを感じた。

「よし!」

何度目かの手拭いを絞り、完璧に水分を取れないにしろ水が滴らなくなった綾部の衣を確認したタカ丸は綾部の顔を見る。

「綾部君、お風呂に入りに行こう。僕、自室から服を持ってくるから綾部君も用意しておいてね!」

そう言って足早に自室へと戻るタカ丸の言葉に従って、綾部も自室に入って用意を整える。
それらを脇に置いて廊下に座ると雨を眺めた。
想いは先程より軽くなった気がした。







end

――――――――――――――――――――

梅雨でせつなく、どれも中途半端ですみません!!
綾部をアンニュイにしたかったんです。

そしてまた綾タカとか言いつつ、綾→←タカになってしまいました(-_-;)
でも今回は、分かりにくいけどタカ丸も綾部が好きなんです!!

そして六樹様、一万Hitおめでとうございます(#´Α`#)
六樹様の綾タカには毎度興奮しながら読ませていただいております。
大好きです!!これからも頑張ってください!

点線から上を六樹様のみお持ち帰り可能でございます。


あ、最後に。
綾部の軽くなったのは好きの気持ちではないです。
想い=雨、梅雨明け=悩み終了、と言う感じです。
ふへへ。説明してもわかんねぇや(TΔT)

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