頂*捧*企
□そんな、出会い
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そんな、出会い
綾タカ 出会い
六樹様への捧げ物
ひとつ
太陽みたいな笑顔
ふたつ
蜜色の髪と瞳
みっつ
体格の違う身体
「…で、タカ丸さんは取りあえず守られた訳だ!私の力が殆どを占めた訳だが!!」
部屋で愛用の手鋤を磨いていると、同室の滝夜叉丸が本日あった事件を自慢を含めて語る。
得物を磨きながら聞いてるんだか聞いていないんだかな感じで相槌を打っていた綾部は、ふと得物から目線を外すと、未だにぐだぐだと自慢をしている滝夜叉丸へと向けた。
「タカ丸って誰?」
「貴様!何一つ、私の話を聞いてないではないかっ!!」
やはり話を聞いていなかった綾部は、滝夜叉丸の憤りも意に反さない。
「で、誰?」
「だーかーらー、例の、は組に編入して来た元髪結い師の人だ。二つ年上だが忍者の勉強の経験が無いという事で、四年に編入したのだ。噂にもなっているだろう」
「へえー、そうなの?」
余り興味無さそうに再び手鋤に目を移すと、磨きを再開する。
そんな綾部に滝夜叉丸が、貴様が聞いて来た事だろうが!!と怒鳴り付けた。
その噂の人を綾部が初めて会ったのは、彼が入学して数日後の事だ。
「ぅわあ!!」
「わ!大丈夫!?乱太郎君!!」
近くで聞こえた声に作業を中断すると、綾部は掘っていた穴から顔を出した。
声の方を見ると、四年の制服を着た人が穴に向かって必死に声を掛けている。
どうやら誰かが自分の掘った穴に掛かったみたいだと見ていると、背を向けて穴を覗き込んでいた人が頭を上げる。
さらり
綺麗な蜜色の髪が靡く。
同級生と仲がいい方ではないが顔ぐらいは知っていた綾部は、見た事のないその色に惹かれた。
「えっと、手を伸ばすから掴まって〜!」
「はいぃ」
手を伸ばした蜜色は、穴へと体を屈める。
それが危なっかしくて、髪の色に見入っていた綾部は穴から上がると、そっと背後へと忍び寄った。
「手伝いましょうか?」
「うぁ?!…びっくりしたぁ」
驚きの表情の中に髪と同じ蜜色の瞳が綾部を映した。
ぱしぱしと瞼を瞬かせて綾部を見上げた蜜色が、ふわりと微笑む。
「ありがとう。じゃあ、そっちの手を持ってくれるかな?」
「はい」
右と左にそれぞれの手を取って、穴に落ちていた乱太郎が持ち上げられる。
小さな擦り傷があるようだが、よく穴に落ちている乱太郎は大して気にせずに持ち上げてくれた二人へと礼を言った。
「ありがとうございました。タカ丸さん、綾部先輩」
「どういたしまして。いやぁ、びっくりしたよ〜。いきなり隣から消えるんだもん」
乱太郎に付いた土を払いながらタカ丸は、凄い落とし穴だよねぇ僕全然気付かなかったよと呟いた。
「そりゃあそうですよ!綾部先輩の落とし穴は、プロの忍者に通用するって言われてるんですから!!」
「えっ!この穴、綾部君が掘ったの!?」
二人を静観していた綾部に、好奇心いっぱいの瞳が向けられる。
「ええ、まあ」
その眼差しに何故かざわつく胸に平静を装い、綾部は頷く。
タカ丸は更に目をきらきらとさせて綾部を見ていたが、突然はっとすると立ち上がって改めて綾部の方を見遣る。
「自己紹介が遅くなってごめんね。僕は四年は組に編入した、斉藤タカ丸です」
「四年い組の綾部喜八郎です」
よろしくねと差し出された手を取って自らも名乗ると、タカ丸は嬉しそうに微笑んだ。
細められた蜜色がふと何かに気付き動きを止める。
綾部を見たまま動きを止めたタカ丸に、綾部が問いかける前にタカ丸の手が綾部の髪へと伸びた。
「髪に土が付いちゃってるよ、穴掘りしてたのかな?」
土を払いのけた手がすっと離れる。
綾部を見つめて首を傾げたタカ丸に、後ろに居た乱太郎が呼びかける。
「タカ丸さん、そろそろ行かないと遅れちゃいますよ」
「あっ!そっかぁ、急がなきゃ!!」
先に走り出した乱太郎を追って走り出そうとして、タカ丸はもう一度綾部の方へと顔を向ける。
「綺麗な髪だね、今度結わせてね〜」
にっこりと笑って手を振るタカ丸は、そう言うと乱太郎に向かって走り出した。
それを見送った後、綾部もその場から足早に去る。
乱太郎が落ちた穴も自分が掘っていた穴の放置して。
長屋の自室へと帰った綾部は、部屋に居た滝夜叉丸へと詰め寄った。
「斉藤タカ丸さんについて知ってる事全部教えて」
「はぁあ!?いきなり何を言い出すんだ喜八郎!?」
「教えて」
訳が分からずにいる滝夜叉丸に綾部は更に詰め寄る。
知りたい、と。
あの人を考えると、ひとつ、ふたつ、みっつ。
何故こんなにも気になるのだろうか。
110107.