頂*捧*企

□夏祭り
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08.から揚げ



屋台の周りには香ばしい油の匂いとニンニクの香りが広がっていた。
その匂いにつられる様に、屋台には人が並んでいる。
次に揚げ上がればから揚げの買える位置まで列が来た竹谷は、わくわくと屋台の挙げ器を見つめた。

「次やっと買えるな!」
「私はいらないぞ」
「わかってるって!!一個分けてやるから!」

いらんと言う三郎の肩を叩いてニコニコと笑う竹谷に、三郎は呆れたように溜め息を吐く。
お待たせしましたー、と屋台の人の声に竹谷の顔はぱっと輝く。
列が動き前へ行くとから揚げの匂いも濃くなってきて、竹谷の腹が鳴る。

「…くっ」
「三郎!!」

すぐに口元を押えたが、竹谷の耳には三郎の漏れ出た笑い声が聞こえてそちらを睨むが、三郎は手の甲を唇に当てて肩を震わせている。
ぷくりと頬を膨らませて怒る竹谷を見て更に三郎の笑いは大きくなった。

「さぶっ!!」
「おーい、次、兄ちゃんの番だよ!何個にする?」
「あ、ハイ!一つください!!」
「ほいよっ!!」

三郎に言いかけた言葉は店の人に遮られた。
から揚げを受け取って三郎を見れば、もう笑いは収まっていて澄ました顔をして竹谷を待っていた。
じーと視線を向けても三郎は知らん顔でいいのか?とマヨネーズを指さして聞いてくる。

「…いるけど」
「後ろが閊えるから早くした方がいいんじゃないか?」

そう言われて慌ててマヨネーズをから揚げに掛けて屋台から離れた竹谷に三郎は着いてくる。
竹谷は、腹の鳴った羞恥や三郎への怒りをぶつける様にしてから揚げへと噛みついた。
じゅわりと口いっぱいに衣と若鳥の味が広がる。
やっぱり揚げ立ては一番美味いよなと納得して横を見るとこちら見る三郎と視線が合う。

「いる?」
「ああ。でも一口でいい」

三郎の言葉に竹谷は仕返しを思いつき、心の中でにやりと笑う。
自分の食べかけのから揚げを三郎の口元に持っていって笑顔を向けると、驚く琥珀色が見えた。

「ほら、一口だろ?」
「…………ん」
「へぇ!?」

悪戯のつもりで差し出したから揚げを三郎は一口齧ったので、今度は竹谷が驚いて変な声を上げてしまう。
三郎を凝視すれば、脂っこいとから揚げの感想が返ってくるがそれに返事をする程竹谷は先程の衝撃から抜け出せていない。

潔癖のきらいがある三郎だが、竹谷や雷蔵の食べかけは食べられるのは前から知っているからそれにはそれ程まで驚かない。
では何故かというと、三郎が人目を気にせず所謂あ〜んを公衆の場でやってのけたことだった。
しかも三郎はそのことに関して無意識のようだった。

「食べないのかハチ。冷めるぞ」
「…ぅ…あ…ウン。食べる、ぞ…」

相手が無意識なのだから気付いたこっちが恥ずかしくなる訳で、顔を赤くする竹谷に三郎は首を傾げる。
竹谷はなるべく先程のことを意識しないように心がけてから揚げを食べていると、三郎が竹谷の近くへと寄って来た。

「ん?な、に…っ!?」
「いや、お前…」

ぐっと顔を寄せてくる三郎にたじろぐ竹谷を気にした風もなく三郎は竹谷の髪に鼻を近づけると、匂いを嗅いだ。
驚き固まる竹谷を余所に三郎は淡々と口を開いた。

「から揚げの匂い付いてるぞハチ」

言われて気付いたが、食べているから揚げ以外からも香ばしい匂いがしたのは長いこと屋台の前に並んでいたから匂いが体に移ったかららしい。
だからといって、顔をそんなに近付く意味が分からないと竹谷の頬の熱は上がる一方で、混乱する頭が行動を起こす。

「…三郎も、匂い付いてんぞ」
「……っ!」

三郎の浴衣へと鼻を押し付けて言えば、今度は三郎が固まった。
その顔にこっそりとざまあみろと思った竹谷であったが、自分の頬の赤みが増していることには気付かなかった。



end

鉢竹がなかなかイチャついてくれない!!
気を抜くと鉢屋さんが乙女度増してて困ります。

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