頂*捧*企

□夏祭り
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07.きゅうりの一本漬け



「二本くださいっ!!」
「おい、私はいらないぞ!」
「好き嫌いすんなよ三郎〜!!あ、こいつの言うことは気にしないでいいんで、二本お願いします!!」

二本分の料金を払い、二本のキュウリを受け取った。
キュウリを一本丸々漬けて割り箸で刺しただけの簡単なものだが、そのシンプルさが竹谷は好きだった。
それに、塩分のあるキュウリはこの夏の暑い中ではすごく美味しく感じるのだ。

「ほら!三郎にも!!」

一本を銜えてもう一本を三郎に差し出すが、嫌な顔をして距離を置かれる。
基本的に青野菜の好かない三郎らしい反応に苦笑して、開いた分をすぐに詰め寄り、竹谷は三郎の手にキュウリを押し付けて渡した。

「食ってみろよウメーから!生は苦手でも漬けてあったら大丈夫かもしれないだろ?」
「だから私はいらなって!」

押し付けたキュウリが竹谷へとまた押し付け返されてしまう。
雷蔵はいつも三郎の野菜嫌いをなんとかしたいとぼやいていたが、これは大変だなと少しだけその苦労が竹谷は分かった。

三郎にどうキュウリを食べさせるか考えてる間に竹谷は自分の分を食べ終えていて、割り箸だけになった自分のきゅうりの一本漬けの残骸へ視線を向けるとある事を思いつく。
ぽきりと三郎のキュウリを半分に折って、一つを自分の割り箸に刺した。
残った方をもう一度三郎へと向けて差し出した。

「これぐらいなら食えんだろ?」
「……」
「雷蔵にまた好き嫌いはダメだよ、って怒られんぞー!」
「…雷蔵を持ちだすなバカハチ!」
「な!ほら! ひとくち頑張ってみよーぜ!!」

にこりと笑ってキュウリを三郎の口元に持って行くと、何故だか睨まれた。
それも僅かに頬が赤くなった顔で睨まれて、三郎がそんな反応をするようなことがあったかと思い返そうとする前に三郎がやや荒い口調で竹谷に言葉を発する。

「わ、私は子供かっ!!」
「え!?あ!!別にそんなつもりはねーよっ!?でも、ほら、あれだ!えーっと…!」

自分の言ったことを思い返して恥ずかしくなった竹谷は半分になったキュウリを両手に慌てだす。
三郎以上に顔を赤くして、両手にあるキュウリをもう食べてしまおうかと考えたところで、一つが急に竹谷の手から離れた。

「え?」
「一口だけだからな!あとはハチが食べろ!!」
「お、おう!任せろ!!」

三郎が渋々といった感じではあるが自分からキュウリに手を伸ばしたことに少し感動していると、その横で三郎が、嫌そうな顔のまま小さく一口だけキュウリを齧った。
おお!と更に感動を重ねていると、眉間に皺を寄せた三郎が残りのキュウリを竹谷へと手渡す。

「塩辛い」
「夏はそれがウメェんだよ!!でも良く食べたな!えらいぞ、三郎!!」
「子供扱いするな!!」

怒る三郎に笑顔を向けて、残りのキュウリを平らげれば、漬けで柔らかくなったキュウリから漬け汁が口の中に広がる。
少し塩辛いぐらいだが、この暑さならそれぐらいが丁度いい美味しさだ。

「あ、雷蔵に報告しよう!」
「やめろ馬鹿っ!」

携帯をめぐる攻防を繰り広げながら、割り箸を2本、竹谷はゴミ箱に投げ入れたのだった。



end

三郎は小食で野菜嫌いそう。
竹谷は何でも食べる。特に肉は好きそう。

勘ちゃんも何でも食べるし大食漢。
雷蔵は普通だけど甘い物は別腹そう。
兵助は豆腐があれば生きていける。


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