頂*捧*企

□夏祭り
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06.お面



「お!これ三郎に似合うんじゃね!?」
「……本気で言ってるのか?」

差し出した何かの少女アニメキャラのお面は、心底嫌そうな顔と声に却下された。
分かっていたことではあるがもう少し乗ってくれてもいいのではないかと竹谷は苦笑する。
店の主はのほほんとした顔で此方が選ぶのを見守っていくれていた。

「えー…んじゃあ、コレ?」
「何でそれを選んだ?」

不思議そうな顔で此方に問い掛けてくる三郎に、三郎に向けていた面を自分側へと竹谷は向けた。
向かい合う狐の面は無機質ではあるが、朱に彩られた模様や笑みを浮かべる顔が独特の雰囲気を出していて魅力がある。
何かを思って狐の面を手に取った訳ではなかったのだが、竹谷は改めてその狐の面をじっくり見ると、それが一番三郎に合っている気がした。

「何か…三郎っぽい、っつーか」
「…私っぽい?」
「狐って騙すだろ?三郎も人を騙すの上手そうだし!!化けるのとかもっ!!っあで!?」
「アホハチ!それの何処が私っぽいんだ!」

ぼかり、と拳で頭を叩かれてその場所を押えて竹谷は蹲る。
恨みがましく涙目になった瞳で三郎を睨むと、逆に睨み返されてしまった。
手に持っていた狐の面も奪われる。

「あ!」
「仕方ないから私はこれでいい。……その代わり、ハチはコレ、な?」

ニコリ、と怖いぐらいに綺麗に笑って狐の面の代わりに差し出されたのは最初に三郎に渡した少女アニメキャラの面だった。
有無言わせぬその笑みに竹谷は顔を引き攣らせて後ずさるが、三郎はその距離を先程よりも短く詰めて来た。

「えーっと、三郎さん?俺の悪ふざけが過ぎました!!せめてその可愛い感じの奴は止めて下さいっ!!」
「いやぁ、きっと私なんかより似合うと思うぞ?」
「おほー…!さっきの絶対根に持ってるだろ!?」

ぺちぺちと手に持った可愛い面を竹谷の頬に当ててくるが、竹谷は断固拒否を示す為に顔をそっぽへと向かせる。
少しの攻防がそこで繰り広げられていたが、先に降りたのは三郎だった。
少女アニメキャラの面を竹谷から退けると、他の面を差し出す。

「なら、これだな」
「…コレなら。いや、うーん…」
「そうかそうか。ハチはそんなにさっきのが気に入ったのか。なら、」
「うおおおお俺、このキャラダイスキーーー!!!」

三郎の手が先程の少女アニメキャラの面に戻りそうになったのを慌てて止めて、渡された面に飛び付く。
そのときに竹谷に向ける三郎の勝ち誇った視線がかなり憎らしい。

竹谷は改めて自分の手元にある面を見た。
先程の竹谷の年で付けてるとちょっとどころではなく恥ずかしい面ほどではないが、こちらも可愛くデフォルメされた動物の面だった。

「なんでカピバラ…?」
「もさもさしててハチっぽいだろ?」
「俺、もさもさしてねーし!!ちょ、なんだよその憐れみの目は!!!」
「いや、自分のことを理解していないのは可哀想だなと思ってな…」

更に残念そうな顔を三郎に向けられると、何の謂れもない筈なのに虚しい気持ちになるのは何故なのだろうか。
お前にはこれが一番似合う、と三郎が嫌に真剣な顔で言われれば竹谷はもう断ることが出来なかった。

「これとこれ、2つくれ」
「あ!待ってくれ!!これも!」

竹谷と三郎の分と、もう一つを店の主に渡す。
それは最初に三郎へと渡した少女アニメキャラの面だ。
三郎が驚いている横で竹谷は店の主にその面の分の料金を支払った。

「おいハチ、私はそれは付けないぞ。雷蔵にも付けさせないぞ!」
「んなことしねーよ!怖ぇぇし!!…これは勘ちゃん用だ」
「はぁ!?」

三郎が足を止めてぐるりと竹谷の方を振り向いた。
竹谷は手に持っていた可愛らしい動物の面が自分の頭の裏にくるように付けると、もう一つ持っていた少女アニメキャラの面を三郎の顔の前で振る。

「勘ちゃんならノリ良くこれ付けてくれるだろうからな!」
「おまっ!〜〜っああ、貸せッ!!」

手に持っていた面を奪われて、先に付けていた狐の面と反対の左側へと付けられた。
狐の面とのアンバランスさに口元が緩む竹谷を、三郎は睨みつける。

「…勘右衛門が来るまでは付けててやる」
「っっ、そ、うか!に、似合うぞっ!!」
「嘘つけ!!」

三郎が足早に行くそばでお面を買いに来た小さな女の子がぽかんと口を開けて三郎を見て指をさしている。
それに気付いているのにお面を外そうとしない三郎に、竹谷は笑顔で追って行った。



end

三郎は竹谷をもさもさした動物と思っているようです。
そして可愛い動物のように思っているらしいです。

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