頂*捧*企

□夏祭り
5ページ/11ページ



05.ラムネ



大きな青いボックスの中で水とたっぷりの氷が浮かんでいる。
見てるだけでキンキンに冷えているのが伝わってくるそれに、じっとりと汗ばんだ体が更に強く潤いを求めかのように喉の渇きを訴えた。
氷の下にはペットボトルや缶ジュースや缶コーヒー、缶ビールや缶コーヒーが涼しげに沈んでいる。

その横で、金ダライという懐かしいものの中に竹谷の目的の物はあった。
水と氷から透けて見えるのは水色透明な瓶だ。
今の時代はプラスチックの容器も沢山作られているし、ゴミを出すにはそちらの方が良いのだろうが竹谷は瓶の方が好きだった。

「おっちゃん!ラムネ一個ちょうだい!」
「私も一つ」
「あいよー!!」

竹谷の後に続けられた注文に店の者が元気に答える。
驚いて三郎を見る竹谷を小突きながら、三郎は自分の財布から二人分の小銭を出すと店の者へと渡してしまう。
慌てて自分の財布を取り出そうとした竹谷は三郎の手に制された。

「奢ってくれんの!?」
「そんな訳ないだろ。後でから揚げ奢れ」
「ぜってーそっちのが高ぇじゃん!!?」

頬を膨らませて異議申し立てをしていた竹谷の目の前に二本のラムネが差し出される。
冷たく冷えている瓶を受け取ると、店の者が溌剌とした笑顔で楽しんでこいよ!と声を掛けてくれ、それに笑顔を返すと先に歩き出した三郎を追った。

「ほら、三郎の分!」
「ああ」

一つを三郎へと手渡して、ペリペリと上の蓋を開封する。
ピンクのプラスチック製の蓋を分解して、凹っりした必要なところを取り出したところで視線を向けられていることに気付き、ラムネへと集中していた視線を上に上げる。
三郎が蓋も開けずにこちらを見ていた。

「…飲まねーの?」
「いや…飲む、が……」

珍しく尻すぼみになっている三郎の言葉に内心首を傾げていれば、三郎も蓋を開け出してピンクの栓抜きを取り出すとそれを栓となっているビー玉に押し当てて一気に栓を抜いた。
竹谷の、あ、という小さな声に視線を一瞬向けてきたが、ポンッと音を立てて開いたラムネからシュワシュワと泡が溢れてきたことによりすぐに視線はラムネへと戻った。

「っ!!何だこれは!?おいハチ!どうなっているっ!?」
「っっっ!!!〜〜〜〜〜っ、ぶはっ!!」

焦る三郎の顔に堪えていた笑みを拭きだしたらもう止められなかった。
あの普段飄々としていて、雷蔵に関すること以外では滅多に表情を大きくは崩さない三郎が、ラムネ一つ大慌てをする姿に竹谷は堪え切れなかったのだ。

「っ…わるいッ!…けど、っさぶ、ろっが!そんな顔ッ!!……ひ、ぃっ!」
「ハチ!」

最終的には声を引きつらせて笑う竹谷に三郎の表情が段々と不機嫌になってくるのだが、それすらも面白くて竹谷は笑い続けた。
腹を抱えて笑って、笑いすぎて涙が出てきたのでそれを指で拭っていれば、三郎が持っていたラムネを竹谷の口に押し付けて笑いを止めようとする。

「うぐっ!?っぅ、ぐ、…っわる、かった、って!!くっ、るし…!!」

ぐいぐいと押し付けてくるラムネの飲み口が歯に当たり、口に押し込まれて息が苦しくなる。
笑っている場合ではなくなった竹谷は早急に笑いを落ち着けて口からラムネを離した。

「口に入れることないだろ!!窒息したらどうする!!」
「その煩い口を塞いだだけだ。 私のはハチにやるから、ハチのやつ私に寄こせ」
「横暴!!」

結局一口も口を付けずに三郎のラムネは竹谷に渡り、竹谷のラムネは三郎へと持って行かれる。
竹谷は自分の手からラムネを持って行く手を止めると、ニヤリと笑った。

「俺が見本見せてやるよ!」
「……一滴でも零したら同じように笑ってやるからな」
「そんなことにはならねーし!!」

見とけよ!と三郎の手にあった元自分のラムネの瓶を持つと、それを一旦地面へと置いて自身もその傍にしゃがむ。
不思議そうな三郎の視線を受けて、得意げにコツがあるんだよと笑う。

「こう手の平を押し当てて…っと!」

ピンクの栓抜きの平たい部分を手の平に当てて、その手を瓶の栓であるビー玉の上に押し当ててそのまま体重を乗せた。
ポンッと栓の開く音にシュワシュワと炭酸の音が混ざるが竹谷の手の下から泡は漏れなかった。
開ける際の圧の変化に炭酸が溢れてくるのを自身の重みと手の平で蓋をするのだ。
炭酸のシュワシュワした音が落ち着くと手を飲み口から退ける。

「ほら、な!零れないだろ!!」

ニッと笑ってラムネの瓶の底の汚れを払い三郎に渡すと、悔しそうな顔で受け取られた。
立ち上がる際に、ぐしゃりと頭を掻き混ぜられて三郎に視線を向ければ憮然とした表情でこちらを見ていたが、すぐに苦笑に変わった。

「まあ、ハチにしては良くやったな」
「何で上から目線!?」

むぅと納得のいかない顔で竹谷はもう一つの瓶をとると、改めてラムネに口を付ける。
喉の奥でシュワシュワと刺激を感じて潤う。
飲みながら隣を見れば、三郎もなんだかんだで楽しそうな顔をしてラムネを飲んでいる。
ラムネから口を離せば、コロコロとビー玉とガラス瓶の当たる心地良い音が響き、ラムネの甘さと共に竹谷の胸に染み込んだ。



end

ラムネ開けるの下手な人見ると可愛いって思います!

ところでこの鉢竹は付き合っているんですかね…(^◇^)?
付き合ってなくてもナチュラルにイチャついているのもありかなって思いますが、キスしてもらいたいのでさすがに無理ですかね…。


.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ