頂*捧*企

□夏祭り
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10.わたあめ



「三郎ー!ハチーー!!」

聞き慣れた声に振り向くと、興奮気味に頬を上気させた雷蔵が笑顔で手を振ってこちらへ向かって来ていた。
特に屋台に並んだりしていなかった竹谷と三郎は雷蔵に手を振り返す。

「雷蔵!!」
「らいぞー!何かいっぱい持ってんな!」

手に幾つかの袋を持って近付いて来た雷蔵に言うと、やっと買えた!と袋を持ち上げて顔を綻ばせた。
雷蔵の笑顔に隣で三郎が可愛い!とか言って抱きつこうとして避けられているのをスルーして竹谷は雷蔵の手元を覗き込んだ。

「何買ったんだ?」
「えへへー、甘いやつだよ!はい、ハチにも1個あげる!」
「おほー!!いいのか!?」

手渡された袋の中を見るとまた袋に入った物があった。
中の袋を持ち上げるとその袋の表面には何やら可愛らしい絵柄がプリントされている。

「あ…これ、わたあめか!!」
「そうだよ。可愛いでしょ!」
「ああ……ウン、ソウダネ」
「……クッ!」

可愛いでしょと言って指をさした袋の絵柄は、竹谷の見覚えのあるもので、同じくそれを見ていた三郎が思わずといったように喉で笑う。
きょとんとこちらを見る雷蔵に、三郎が嬉しそうに擦り寄る。

「さすが雷蔵だ!私と同じものを選ぶなんて!!運命だな!!なあハチ?」
「うるさいバカ三郎!…何でコレなんだ?」

雷蔵から貰った袋にある、竹谷の頭に着いているお面と同じカピバラの絵を何とも言えない表情で見ながら呟く。
すると雷蔵は胸を張って、これは絶対ハチだなって思って!と満面の笑みで告げてくるので、横で笑いを堪えられなくなって震え出した三郎の横腹を小突きながらありがとうと竹谷は言うしかなかった。

「これはハチだよな」
「うん、僕もこれ見たとき絶対ハチにあげなくちゃって思った」
「俺はこんなにもさもさしてねーよ!」

絵柄を睨んで文句を言っても、似た者従兄弟共は声を揃えて、えー、と不満そうだ。
お前らには俺はこう見えているのかと問い質したいが、そうだと答えられたらそれはそれで悲しいので言わないでおく。

「けど、久しぶりだなわたあめとか…!」
「僕お祭りに来た時は必ず買うよー」

袋を開けて、割り箸を持って袋から出すとピンクと白色のわたあめが顔を出した。
ピンクと白の2段になっているわたあめを久しぶりに見て、懐かしさに笑みが浮かぶ。
前に食べたのは小さな頃で、両親と祭りに行って買って貰ったとき以来だ。

「こんな感じだったなーそういえば…」
「おいひいよ!」

自分用に買ったわたあめを早速食べている雷蔵の手にある割り箸にはピンクが2段重なっていて、三郎に渡されたわたあめは白が2段でそれぞれ種類があるらしい。
雷蔵に倣って、上の段のピンクに齧り付くと、すぐに甘い味を残して口の中で溶けてしまった。
ふわふわな感じや優しい甘い味に竹谷の顔には知らずに笑みが浮かぶ。

「美味いな」
「美味しいよね〜!僕もう1個開けよう!!」

1つ目をぺろりと平らげて、手に持っていた最後の袋を開けて白が2段になった棒を取り出して雷蔵は食べ始める。
お土産用と言っていたがいいのかと雷蔵に聞くと、また買うからと笑顔と共に返って来る言葉に家に帰ったらちゃんと歯を磨けよと言ってしまったのは竹谷の生来の面倒見の良さからだった。

ピンクを半分ほど食べて三郎を見れば、甘いのは余り好まないと言っていたからか食べる進みが遅い。
そのうち全部雷蔵にあげるんじゃないだろうかと見ていると、竹谷の方へと動いた琥珀色の瞳と目が合った。

「それ…、ピンクは味が違うのか?」
「いや、同じじゃねぇの?食う?」

ひとくち、と三郎の方にわたあめを向けて千切っていいぞと言おうと口を開いたが、三郎が竹谷の手首を掴んで引き寄せる。
わたあめを持った手が三郎に近づいて、そのままピンクのわたあめを食べられた。

「……甘いな」
「それは白い方も同じだろ!」

ピンクのわたあめの感想がわたあめ全般に言えるものでがくりと肩を落とした。
呆れた目を三郎に向けると、三郎は自分の持っていた白いわたあめを一口分千切るとその手を竹谷の唇に押し付けた。
驚いて口を開けたところに三郎の指が入ってきてわたあめを押し込まれる。

「んむっ!?なに、っすん、だ!!」

口の中でピンクのわたあめと違わずすぐに溶けてしまった白いわたあめを呑みこんで三郎を見上げれば、首を傾げてこちらを見ていた。

「…なんだよ?」
「感想は」
「え、感想?えーと、…………っ、あ、甘かった」

結局、三郎の言った言葉と同じ言葉しか言えなかった。
感想は、と訊いた時の三郎のわたあめのような優しい瞳だったり、甘さを含んだような擦れる声だったり、それを向けられてふわふわと揺れる自分の心だったり。
すべてひっくるめて、甘ったるくて仕方がなかった。



end

最初は三郎が、最後は雷蔵が空気になってしまいました…。
きっと雷蔵ははこんな彼らの雰囲気に慣れていて、食べ終わったら直ぐに新しいのを買いにいたんだと思われます。

今週は忙しくて1つしか書けませんでした!減らない(笑)

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