頂*捧*企

□鉢屋さんのなんかしろ続き
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2万打リクエスト企画
【鉢屋さんのなんかしろ続き】
※綾タカ風味もまじってる



撮影が長引くのをスタジオの時計を何度も確認してはイライラと表情を曇らせていく。
三郎の横で同じく待機をして撮影を見ていたタカ丸はそんな三郎をハラハラと見守った。
事情が事情なのだから言えば帰らせてもらえるだろうに、聞いたタカ丸に三郎はプロとして仕事を全うする事は何よりハチに怒られると言って誇らしげに、少しだけ寂しそうに笑った。

何度目になるか、また休憩が入りメインの女モデルが分かりやすく媚びた笑いを浮かべて三郎とタカ丸へと寄って来る。
この撮影の終わらない原因でもある人物に、タカ丸が困った顔をして迎え、三郎はあからさまに嫌な顔をしその場を離れようとした。
しかし女モデルの方が三郎より少しだけ早く、三郎とタカ丸二人の腕に抱きついた。

「三郎くぅん、タカ丸さぁん!!カメラマンさんが全然OK出してくれない〜!私すごく頑張ってるのにぃ」

うわぁんと鳴き真似をして抱える腕に胸を押し付ける女モデルに対してタカ丸はやんわりと腕を解き、三郎は乱暴に掴まれていた腕を解いた。
それをどう勘違いしたのか、女モデルは顔を赤らめる。

「あ、ごめんね。…胸当たっちゃってた?」

ワザとであるのはバレバレなのに恥ずかしげに言う女モデルの顔に三郎は腕を伸ばす。
モデルなだけあって綺麗な顔に更に美しさを増長させるメイクを施したのは三郎だ。
三郎は女モデルの言葉などには反応を見せず、メイク崩れがないかを確かめる。

「崩れた所はないみたいだから、私の手は要りませんね。撮影頑張ってください」

最初の方はプロとして真剣に、最後の言葉は女モデルの顔を離しながら興味がなさそうに感情の薄い声で言った。
その中に含まれる早く終わらせて帰らせろという真意に気付いているのはタカ丸だけで、女モデルは三郎の言葉を真に受けて嬉しそうに笑って三郎君のために頑張ちゃおうかな〜と言っている。
どうやらこの女モデルの狙いは三郎のようで、タカ丸は溜め息を吐きつつ少しだけ崩れた髪を直しにかかった。



我儘な女モデルとして有名な彼女も、三郎の言葉にやる気を出したみたいで漸くプロらしい表情を見せるようになった。
スタジオに響くカシャカシャとカメラを切る音とカメラマンの指示と褒め言葉を耳で聞きながらタカ丸は三郎に目をやった。

「あの子、三郎君狙いみたいだよ?」

「やめてくださいよタカ丸さん。私気付かない振りしてたのに」

タカ丸の言葉に嫌な表情をつくり三郎は蜜色を見返した。
それに苦笑をしてタカ丸は言葉を続ける。

「でもほら、彼女、三郎君の言葉でやる気になったみたよ」

「…やっぱり指輪は着けておくべきでしたかね」

ちらりと撮影している女モデルを見て言ったタカ丸に、三郎は自分の左手へと視線を向ける。
そこには何時もはシルバーのリングがはめられているのだが、仕事の時には化粧品や道具が掛かったり当たったりして傷が付くのが嫌なので外している。
それでもチェーンに通して首にかけたりポケットに入れるなどして肌身離さずは持っているのだが。


「勝手に勘違いしてもらって、早く帰れるなら私は別にいいですけどね」

「もう!仕事相手は大切にしないとダメだよ三郎君!……はっちゃんは大丈夫なの?」

心配そうなタカ丸の声に三郎は小さく頷いた。
朝起きた時に八左ヱ門の顔が赤かったの計らせたら熱があったのだ。
最近はやりの風邪に掛かった八左ヱ門に仕事を休むと言った三郎は、八左ヱ門に怒られながら家を押し出されてこの仕事へと来たのだった。

「朝の時点では微熱だったんで取りあえず仕事は休ませました。昼に電話したら鼻声で薬を飲んだと言っていたので、多分、大丈夫だと思います」

「なんで多分なの?」

「あいつ、無理するとこあるんで。辛い時言わないんですよ」

仕事中はきちんと仕事はこなすけど、話をしている時や待っている時はどこか上の空だった三郎を思い出してやっぱり心配だったんだとタカ丸は思った。
パタンとメイク箱の蓋をして帰る用意をはじめた三郎を見て、どうやら撮影も終わるのだとタカ丸が分かったのは仕事が同じになる度に撮影終了の声が掛かる前に三郎が用意し始めて直ぐに終了の声が掛かるのを何度も見ているからである。
そしてやはり今回も、直ぐに撮影終了の声が掛かった。



「終わった〜!!今度はちゃんとOKもらえたよ三郎君!三郎君が励ましてくれたおかげだねっ!」

「そうですか。じゃ、私帰るんで。お疲れ様でした」

撮影が終わって直ぐに三郎へと駆け寄ってきた女モデルを避けて三郎は仕事の道具を持つとスタジオの出口へと向かっていく。
足早に歩く三郎に後ろから女モデルから慌てた声が掛かった。

「え!?三郎君??打ち上げは?行かないの!?」

「あのね、三郎君は、」

女モデルが三郎を追って行き止めそうな雰囲気にタカ丸がフォローに入るが、その途中で三郎本人から声が上がる。
女モデルへと振り向いて三郎は少しの時間も惜しいと不機嫌な顔を相手へと向けた。


「妻が風邪をひいて寝込んでいるので、私は帰ります」


そのまま女モデルの反応を待たずに再び歩き出した三郎に、女モデルは顔を青くしてタカ丸方へとぎこちなく顔を向ける。
苦笑いを浮かべたタカ丸は次の彼女の言葉を容易に想像ができた。
何度か経験したことである。

「三郎君…結婚してるの…?」

「うん。5歳の子供もいるよ〜。三郎君にすごくそっくりなの!」

タカ丸の言葉に女モデルは言葉を無くして出口へと向かう三郎の背中を見て諦めの溜め息を吐いた。
しかし女は立ち直りが早いもので、今度はくるりとタカ丸に向き直るとにっこりと笑みをつくり向けてくる。

「タカ丸さんは?打ち上げ行く?」

「う、うん。行こうかなとは思ってるよ?」

「じゃぁ行きましょうよぉ」

ぐっと体を押し付けてくる女モデルにどうしたものかと顔を困らせたタカ丸に、帰るために出口に行っていた三郎が振り返って声を掛ける。

「タカ丸さーん。恋人、迎えに来てますよ」

「嘘っ!?綾、っえ!来てるの!??」

女の腕を慌てて解いてタカ丸は走って出口に向かい、出口の外で誰かと話している顔は何時も以上に優しげである。
そのまま三郎もタカ丸も出て行ってしまった出口を、女モデルは茫然と見ていて暫く動けないでいた。





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